【Q】
近年,上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:SMA)の急性解離で,救急外来を受診する患者に遭遇する機会が増えているように思いますが,手術適応に迷う場合も少なくありません。この領域に詳しい福島県立医科大学・佐戸川弘之先生に,血行再建適応の判断基準,および開腹でバイパス術を選択する場合のグラフト選択・グラフト経路などについてご教示をお願いします。
【質問者】
東 信良:旭川医科大学外科学講座血管外科学分野教授
【A】
大動脈解離を伴わない内臓動脈の解離は,一般的に孤立性内臓動脈解離と呼称されています。大部分がSMAの解離であり,ついで腹腔動脈が多いとされています。高血圧や喫煙,動脈硬化,嚢胞性中膜壊死,弾性線維の代謝異常,外傷などの危険因子が考えられています。
SMA解離による障害としては腸管虚血と,動脈瘤または解離腔拡大による破裂の危険性が挙げられます。このうち破裂に関しては,文献上も急性期に発生し問題となる例はかなり少ないようです。そこで問題となってくるのは,多くが腸管虚血の発生です。SMA解離は,腹痛で発症することが多いのですが,明らかな症状を示さないことも少なくありません。そのため,症状のみから早期に診断するのは困難です。筋性防御など腹膜刺激症状を伴うものは,既に進行していると判断すべきです。造影CTなどの画像診断を必ず施行する,さらに必要であれば血管造影を行う必要があります。判断基準は確立されていませんが,腸管虚血が強く疑われる場合は速やかに試験的開腹を行うべきで,腸管の所見と術中のドプラ診断などから虚血と診断されたら血行再建を行うべきです。腸管の虚血が既に不可逆的と考えられた場合は,腸管の切除を行います。
SMA解離の約2/3は,絶食と血圧コントロールなどによる保存的治療と抗血小板薬や抗凝固療法で経過観察が可能とされています。しかし,急性腸管虚血に対して積極的治療が必要とされる場合は,血管内治療や直達外科手術を選択します。侵襲的には血管内治療が望まれますが,施設により慣れた方法で治療を施行すべきです。
外科手術には,解離したSMAの内膜切除術,内膜の固定術,パッチ形成,動脈瘤縫縮,SMAへのバイパス術,SMA─大動脈吻合術など,多くの術式が報告されています。バイパス術の場合,多くは腸骨動脈を供給動脈とします。SMA起始部に近い部位へ吻合する場合は,人工血管を選択してもよいと考えますが,解離腔が長く,より末梢側へのバイパスの場合では,自家静脈を用いて端側バイパスを作成します。経路についてはこだわらず,屈曲に注意し,腸間膜および後腹膜組織によってできるだけ覆うようにしています。
SMA解離は解離腔が経時的に変化することが多いので,治療法にかかわらず造影CTなどで定期的に形態の変化をフォローすることも重要です。