【Q】
過活動膀胱に対する薬物治療の第一選択薬は抗コリン薬とβ3作動薬ですが,どのような使いわけをしたらよいのでしょうか。また,軽度の認知機能障害を有する高齢者に対しても抗コリン薬を投与してよいのでしょうか。名古屋大学・後藤百万先生のご教示をお願いします。
【質問者】
横山 修:福井大学医学部泌尿器科教授
【A】
過活動膀胱の罹患率は加齢とともに増加し,超高齢社会を迎えたわが国では,薬物治療を受ける患者の年齢も高齢化しています。2014年の調剤薬局の処方箋データによれば,過活動膀胱治療薬は80歳代をピークとして約70%が70~90歳の高齢者に処方されています。
従来,過活動膀胱治療薬の標準治療薬は抗コリン薬でしたが,近年では高齢者に対する抗コリン薬の投与に注意喚起が行われています。抗アレルギー薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,抗パーキンソン病薬などの多くが抗コリン作用を有し,多剤服用高齢者の多くが複数の抗コリン薬を服用していると報告されています。抗コリン薬は口内乾燥,便秘,排尿障害などの副作用を起こすことがあり,認知機能障害のリスクが示唆されています。
2015年4月に改訂された「過活動膀胱診療ガイドライン」では,初期標準治療薬として抗コリン薬とβ3 作動薬が推奨されています。β3作動薬ミラベグロンは,メタアナリシスにより抗コリン薬と同等の臨床効果が報告されていること,国内第3相試験・市販後3年の1万例調査での口内乾燥,便秘を含めた副作用発生率が低いこと,65歳以上と75歳以上の高齢者に対する有効性と安全性が無作為化比較試験で報告されていることから,高齢過活動膀胱患者の第一選択薬として選択できます。
他方,過活動膀胱に対する抗コリン薬としては,オキシブチニン,プロピベリン,トルテロジン,ソリフェナシン,イミダフェナシン,フェソテロジン,オキシブチニン貼付剤などが市販され,ムスカリン受容体サブタイプ選択性,臓器選択性,血中半減期(作用時間),副作用出現率やプロファイルなどが異なり,選択肢が多いというメリットがあります。
また,抗コリン薬の交代治療の有効性も示されています。オキシブチニンは口内乾燥や便秘の副作用発生率が高く,脳血管関門の通過性が高いことから認知機能に対する作用も危惧され,高齢者には推奨されません。他方,オキシブチニン貼付剤は血中濃度の上昇を低く抑え,副作用発現率も低いこと,経口投与を避けられることから,高齢者の治療に有用な場合があります。
前述の,「過活動膀胱診療ガイドライン」に,「軽度の認知症を有する高齢過活動膀胱患者に対して,抗コリン薬投与は推奨されるか?」というclinical question(CQ)が掲載されており,「軽度の認知症を有する高齢者においても,抗コリン薬の有効性と安全性は確認されており,抗コリン薬の投与は可能であるが(レベル1),中枢性副作用報告についてはエビデンスレベルの高い報告が少なく,認知機能悪化の例も報告されていることから,注意深い投与が必要である(レベル5)」と記載されています。
結論として,高齢者に対しては抗コリン薬,β3 作動薬いずれも初期治療薬として選択可能ですが,症状の変化,副作用について詳細かつ丁寧に診療し,必要に応じて薬剤変更を考慮することが重要です。