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敗血症治療におけるtranslational medicine【敗血症における免疫賦活療法として,抗PD-1抗体の臨床応用が注目されている】

No.4789 (2016年02月06日発行) P.63

井上茂亮 (東海大学医学部付属八王子病院救急センター 准教授)

登録日: 2016-02-06

最終更新日: 2016-10-26

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【Q】

敗血症の死亡率は,治療の進歩とともに低下しているものの,いまだに3人に1人が死亡すると言われ,その初期治療が重要です。日本集中治療医学会の敗血症の診療指針(「日本版敗血症診療ガイドライン」)では,「重症敗血症/敗血症性ショックにおいては,初期治療の失敗は死亡率増加に寄与する」として,素早い判断と治療開始を求めています。
救命率の向上につなげるための敗血症治療におけるtranslational medicineの取り組みについて東海大学医学部付属八王子病院・井上茂亮先生のご教示をお願いします。
【質問者】
志賀 隆:東京ベイ・浦安市川医療センター救急科部長

【A】

敗血症の病態のひとつの特徴として,「急性期の過剰な炎症反応」が長年注目されてきました。炎症反応は,体内に迷入した病原体を貪食したマクロファージが炎症系サイトカインを大量に産生し,発熱・頻脈・頻呼吸などの臨床症状を引き起こすために起こります。このため,過剰な炎症を制御することを目的として,関節リウマチなどで著効した抗TNF-α抗体や抗IL-6抗体の敗血症応用をめざした臨床治験が行われましたが,結果的には失敗しました。
グラム陰性菌の外膜の成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)の受容体であるToll-like receptor 4の抗体が新たな抗炎症系新薬候補として注目されましたが,米国の多施設前向き研究にて最終的に敗血症患者の予後を改善しないという結果に至りました。その原因は,敗血症では過剰な炎症反応だけでなく「免疫抑制」による感染の重症化が主病態であり,炎症の制御では根本的な解決につながらないからです。
それでは,なぜ敗血症患者は免疫抑制状態に陥るのでしょうか。その原因のひとつとして,感染・炎症系サイトカイン・交感神経緊張を引き金として,リンパ球のアポトーシスが誘導され,T細胞やB細胞の数が低下することが考えられています。また,重症敗血症患者ではCD4陽性T細胞の活性化障害,増殖障害,免疫賦活作用を有するサイトカインであるインターフェロンγの産生障害を認めることが明らかになりました。制御性T細胞の割合も増加しており,T細胞の機能は健常人と比較して著しく低下していることも報告されています。
近年,このようなT細胞の機能障害が敗血症後の免疫抑制の原因であることが認識されるようになり,敗血症における免疫賦活療法が注目されています。特に,一部の悪性腫瘍の免疫療法で劇的な効果を上げているT細胞の抑制系受容体のひとつであるprogrammed-death 1(PD-1)抗体の敗血症への応用が注目されており,米国を中心に臨床治験が展開されようとしています。このような免疫賦活化をめざした分子標的治療薬が,敗血症の予後を大きく改善する可能性があると期待されています。

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