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破裂性腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(EVAR)治療

 【血行力学的に安定した症例でEVARが選択される傾向にある】

No.4793 (2016年03月05日発行) P.60

善甫宣哉 (山口県立総合医療センター外科診療部長)

登録日: 2016-03-05

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

破裂性腹部大動脈瘤に対する治療としてステントグラフト内挿術(endovascular aneurysm repair:EVAR)の有用性が強調されてきています。開腹手術(open surgery)とするかEVARを選択するかは,術者の経験にもよると考えますが,それぞれの適否について。また,EVARでは機種による差はありますでしょうか。山口県立総合医療センター・善甫宣哉先生のご教示をお願いします。
【質問者】
佐戸川弘之:福島県立医科大学心臓血管外科学准教授

【A】

(1)開腹手術とEVARの適否
破裂性腹部大動脈瘤に対するEVARは単一施設の後ろ向き小規模試験では開腹手術より治療成績が良好であるという報告が米国より2006~10年に発表され,わが国でも最近積極的にEVARが行われています。しかし,血行力学的に安定した症例でEVARが選択され,不安定な症例では開腹手術が選択される傾向にあり,さらに,解剖学的に中枢側のショートネックおよび60°以上の高度屈曲やアクセス血管が細い症例では開腹手術が選択されるなど,数多くのバイアスが存在することも事実です。
2014年に,英国ならびにカナダで行われた前向き大規模のIMPROVE試験(Immediate Management of Patients with Rupture:Open Versus Endovascular Repair trial)の結果が発表されました。これは,有症状の非破裂症例や治療直前の死亡症例も含まれるreal-world試験で,EVAR群と開腹手術群の30日死亡率はそれぞれ35%と37%で差がなく,破裂症例に限っても,それぞれ36%と40%で差がありませんでした。しかし,サブグループ解析では女性の死亡率はEVAR群37%で,開腹手術群の57%と比べて有意に良好で,さらに,EVAR群では自宅退院率が94%と開腹手術群の77%に比べて有意に良好でした。
血行力学的に安定した症例ではmulti detector row computed tomography(MDCT)検査を行ったあとに,不安定な症例では直ちに手術室に搬入し,局所麻酔下に大動脈閉塞用バルーンを挿入して血行動態を安定させ,血管造影により解剖学的適応があればEVARを行い,適応外であれば開腹手術を行うEVAR first strategyは有用と考えられます。しかし,待機症例で中枢側ショートネックや60°以上の高度屈曲症例に対して短時間かつ正確にEVARを行い,タイプⅠエンドリークを発生させないトレーニングを術者のみならず助手,麻酔医,看護師,技師の医療チームが重ねておく必要があります。
(2)EVARの機種別の違い
破裂性腹部大動脈瘤に対するEVARの機種別の違いは,2ピースのほうが3ピースより短時間に留置可能で有利と考えますが,血行力学的に安定している症例では機種の差はないと考えます。
最近発表された,2011年,2012年のNational Clinical Database(NCD)に基づく血管外科手術症例数アニュアルレポートでは,破裂性腹部大動脈瘤の手術死亡率はそれぞれ19%と18%,在院死亡率は22%と21%と,欧米の成績に比べて良好です。これは肥満の差やCT装置の普及率による早期診断の差以外にも,有症状の非破裂性腹部大動脈瘤が含まれている可能性があります。最近の国内での学会報告をみても,破裂性腹部大動脈瘤に対する緊急EVARの手術死亡率は15~20%前後であり,IMPROVE試験と同様に開腹手術と差はないようです。
結局,大動脈閉塞用バルーンを必要とするような血行力学的に不安定な破裂性腹部大動脈瘤に対してはEVARを行ってもabdominal compartment syndrome(ACS)が発生しやすく,open abdominal treatment(OAT)を施行しても救命することは困難であると言えます。

【参考】

▼ Mehta M, et al:J Vasc Surg. 2006;44(1):1-8.
▼ Starnes BW, et al:J Vasc Surg. 2010;51(1):9-18.
▼ IMPROVE Trial Investigators:BMJ. 2014;348:f7661.

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