【Q】
膀胱全摘除術は大きな手術で,膀胱そのものを剥離・摘出する方法については多くの手術書で解説されていますが,特に男性において,尿道も一塊にして摘除する際の骨盤操作と会陰操作の連携,恥骨裏の操作についての記載を見ることがあまりありません。男性,女性,神経温存,神経非温存などで少しずつ方法が異なると思いますが,出血が少なく効率的な尿道の「抜き方」について,長野市民病院・加藤晴朗先生のご教示をお願いします。
【質問者】
吉村耕治:静岡県立総合病院腎センター長/泌尿器科部長
【A】
膀胱全摘除術における出血の少ない効率的な尿道の抜き方についてのご質問について,以下,男女にわけて述べさせて頂きます。
(1)男性の場合
骨盤側で前立腺側方靱帯,背側静脈群を処置し,膀胱前立腺が尿道だけでつながった状態にしておき,やや頭側に牽引して外括約筋の筋層のみを電気メスで全周性に削ぐようにして,尿道のきれいな面を露出しておきます。次に会陰操作に移ります。開脚位のまま行う術者もいますが,砕石位にしたほうが,はるかに操作が容易になります(女性も同様)。まず,球海綿体筋から球部尿道をきれいに剥離して,背側面正中の隔壁を,尿道を貫かないようにして鉗子を通し,細いネラトンなどで確保し,遠位に向かって剥離し外尿道近くで離断します。
次に,近位側の膜様部尿道に向かい球部尿道をさらに露出していきますが,球部には側方から球動脈が入ってくるので,これを損傷しないようにします。球部尿道を左示指で下方に押しつけるように張力を掛けながら,12時の方向で恥骨下縁から尿道に向かう線維組織を丁寧に切離していくと,鈍的に膜様部尿道とおそらく外括約筋の間の層で骨盤内に指が入り,尿道の上半周に沿って鈍的剥離が可能です。
6時方向については,球部尿道を損傷しないように尿道を上方に牽引してもらい,さらに直腸前壁を下方に押さえながら球部尿道と中心腱から会陰体に連なる組織を鋭的にある程度切離していくと,この部でやはり膜様部尿道の背側に入ります。残りの左右の側方から入る組織の中に球動脈が存在するので,シーリングして切離した後,尿道を全周性に鈍的・鋭的に剥離すると,膀胱前立腺と連続した形で尿道が摘除できます。
ただし,この方法は球部尿道の剥離が直腸に近くなり,球部尿道に切り込みが入ったり,あるいは球動脈を損傷して出血や尿道が途中で引きちぎれる原因になるので,個人的には,球部尿道をある程度剥離したら,先に膜様部尿道を確保し,それ以外の球部海綿体組織をクランプし,切離後,断端に針糸を掛けて結紮止血します。この方法は球動脈をいじらないですむので,出血も少なく時間も短縮できます。
(2)女性の場合
男性と同様に,骨盤内で尿道と腟前壁の間を膀胱から丁寧に剥離後(尿道にがんがない場合),膀胱の後方靱帯から連続して,尿道側方の組織をシーリングして切離し,少ないながら背側静脈群も処理して,骨盤底に尿道だけでつながった状態にします。
腟の断端を閉鎖した後,やはり膀胱尿道を頭側に牽引しつつ,尿道の括約筋を電気メスで少しずつ全周性に削ぐようにしながら,外尿道口付近まで到達します。
ここで会陰側の操作に移行し,外尿道口周囲を全周性に切開して尿道カテーテルおよび外尿道口側の粘膜を牽引しながら尿道周囲に付着する線維組織を切離していくと,尿道が外れて膀胱と一緒に摘出することが可能です。
以上ですが,手術のコツを文章のみで説明するのは困難ですので,詳細は拙著をご参照頂ければと思います。
【参考】
▼ 加藤晴朗:イラストレイテッド泌尿器科手術 図脳で覚える術式とチェックポイント. 医学書院, 2007.
▼ 加藤晴朗:イラストレイテッド泌尿器科手術 第2集 図脳で学ぶ手術の秘訣. 医学書院, 2011.