【Q】
加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)は網膜の中心部分にある黄斑に脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:CNV)が生じ,著明な視力低下を引き起こす疾患です。最近では,抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)薬のおかげで著明な視力低下を免れる症例もあるものの,継続的な治療が必要です。
最新の治療薬ならびに追加治療の工夫について,関西医科大学・永井由巳先生のご教示をお願いします。
【質問者】
沢 美喜:堺市立総合医療センター眼科アイセンター 副センター長
【A】
AMDには,日本では約9割を占めている滲出型と萎縮型の2つのタイプがあり,現在のAMDの治療は滲出型AMDに対して行われています。
(1)抗VEGF薬の硝子体注射
現在の滲出型AMDに対する治療法の主役は,診断基準における主要所見のひとつであるCNVの発育に関わる血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)を抑制する抗VEGF薬の硝子体注射です。わが国ではペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)の3剤が認可されています。
滲出型AMDは,典型的なCNVを認める典型AMD,特殊型とされるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy:PCV),網膜血管腫状増殖(retinal angiomatous proliferation:RAP)の3病型があり,典型AMDのCNVには,網膜色素上皮の下に発育するⅠ型CNVと網膜色素上皮を越えて網膜下に広がるⅡ型CNVがあります。
Ⅰ型CNVやPCV,RAPの症例に対してはアイリーアRを,Ⅱ型CNVの症例にはアイリーアRやルセンティスRを投与することが多いです。アイリーアR,ルセンティスRともに治療開始から4週間隔で連続3回投与を行う導入治療を設定することが多く,その後,ルセンティスRは毎月,アイリーアRは2カ月に1回投与することが推奨されています。
実際には投与や通院回数の増加や高額な治療費などの問題もあり,再発した際に再投与を行う「必要時投与(pro re nata:PRN)」で経過をみることが承認直後には多くみられました。
(2)Treat & Extend計画的投与法
以上の方法でも視力の維持や改善効果を得られる症例はありますが,再発してからの投与では視力が低下してしまう症例もあり,最近では再発するまでの期間を個々の患者について探りながら定期的に投与するTreat & Extend計画的投与法で経過をみることが多くなっています。再発する前に投与を行い視力の低下を極力防ごうという考え方で,この方法を採用する施設が増えています。
硝子体注射を行うにあたっては,脳梗塞や心筋梗塞といった血管閉塞性疾患の合併症の報告もあり,全身リスクのある人への投与は主治医と十分相談する必要があります。全身リスクの高い人には,全身副作用が少ないとされているマクジェンRを投与するか,病状によっては光線力学療法(photodynamic therapy:PDT)やCNVの直接凝固といったレーザー治療を行うこともあります。
(3)今後の治療開発状況
現在は硝子体注射が治療の主流ですが,将来的にはiPS細胞を用いた再生医療も導入されるかもしれません。まだまだ課題は多いようですが,滲出型AMDに対するiPS細胞を用いた臨床試験が世界に先がけて日本で現在進行中です。
なお,萎縮型AMDに対しても,薬剤の研究開発が行われています。