【Q】
急性上気道炎症状が先行する急性~遷延性咳嗽患者では従来より「感染後咳嗽」の重要性が指摘され,既に抗菌薬が効かなくなっている患者に無闇に抗菌薬を処方しないよう咳嗽のガイドラインでも強調されてきました。一方で,発熱や炎症反応を認めない,あるいはそれらが既に消失し一見「感染後咳嗽」と思える患者にマクロライドなどの抗菌薬が奏効する狭義の「感染性咳嗽」も経験されます。このような患者の見きわめ方や起炎菌の特徴などをご教示下さい。
回答は,川崎医科大学・宮下修行先生にお願いします。
【質問者】
新実彰男:名古屋市立大学大学院医学研究科 呼吸器・免疫アレルギー内科学分野教授
【A】
急性上気道炎症状が先行する急性咳嗽の最も一般的な原因は感染症で,普通感冒がその大半を占めます。普通感冒による咳嗽は2週間以内に軽快することが多いのですが,感染後咳嗽として遷延する症例もみられます。一方,感染後に2週間以上続く,または増強する咳嗽の場合はウイルス以外の微生物(百日咳,マイコプラズマ,クラミジア)を考慮する必要があります。
これらの微生物にはマクロライド系薬が奏効しますので,周囲への感染を防ぐ目的からも診断をして積極的に抗菌薬を投与すべきと考えています。
[1]マイコプラズマの3つの抗原迅速検出法
近年の感染症診療のトピックスとして,簡易迅速診断法の普及が挙げられます。2013年以降,マイコプラズマでは3つの抗原迅速検出法,リボテストR(旭化成ファーマ),プライムチェックR(アルフレッサ ファーマ),プロラストRMyco(アドテック)が使用可能となり,マイコプラズマ感染症の診断向上に寄与しています。臨床試験の結果と私たちの施設で実施したリボテストRとPCR法の比較成績を表1に示しました(文献1)。迅速抗原検査の大きな問題は感度が低いことで,病初期ではマイコプラズマ感染であるにもかかわらず陰性となることに注意する必要があります。このためリボテストRは感度と特異度を上げる改良型を開発中で,今後使用可能となる予定です。
[2]クラミジアの迅速診断法
クラミジアについても2015年にIgM抗体検出法が登場し,迅速診断が可能となりました。ただし,クラミジア感染症でのIgM抗体陽性時期は10~14日以降で,病初期では陰性となることに注意する必要があります(文献2)。
[3]百日咳の臨床診断法
百日咳は抗PT-IgG抗体の検出がゴールドスタンダードで,2015年現時点では迅速診断法は確立されていません。このため欧米では,臨床症状と所見から疑診例を拾い上げる臨床診断法を推奨しており,私たちも比較的特徴的な所見を勘案し,以下(1)~(7)の項目を組み合わせることによって抗菌薬を選択しています。
(1)発症年齢が10~40歳代
(2)5~9月に発症
(3)家族内など小集団内で同様の咳患者がいる
(4)吸入ステロイドやβ刺激薬への反応が悪い
(5)咳の特徴(咳嗽後の空嘔吐など)
(6)末梢血好酸球が正常
(7)FeNOが正常
これらの項目の合致頻度が上昇すれば特異度も上昇し,診断的意義が高くなることを確認しています。言うまでもありませんが,非感染性疾患の咳嗽は,咳嗽の原因となる感染を機に誘発されることが多いため,急性咳嗽の診療では感染症を含めたすべての咳嗽疾患を考慮して詳細な病歴聴取,身体診察,検査を実施しています。
1) Miyashita N, et al:J Infect Chemother. 2015;21(6):473-5.
2) Miyashita N, et al:J Infect Chemother. 2015;21(7):497-501.