【Q】
近年,経カテーテル的大動脈弁植込み術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)が日本でも普及してきました。heart teamの重要性は昨今強く要求されるところですが,やはりカテーテル手技の必要性から外科医の参入の遅れを認めざるをえません。このような環境の中,経心尖アプローチ(transapical approach)とともに経大腿動脈アプローチ(transfemoral approach)においても術者をされている近森病院・入江博之先生においては,今後外科医が進むべき道はどのようなものとお考えでしょうか。大動脈弁置換術(aortic valve replacement:AVR)が外科の牙城であることはよく理解できますが,今後のstructural heart diseaseの治療に対する外科医の将来について,お考えをお聞かせ下さい。
【質問者】
倉谷 徹:大阪大学大学院医学系研究科 低侵襲循環器医療学講座教授
【A】
心臓血管治療においても低侵襲への流れは止められないものだと思います。TAVIに代表されるstructural heart diseaseの治療において,心臓血管外科医が従来の手術のみに固執することは許されない状況であると考えます。歴史が示すように,騎馬武者がその猛勇を誇っていても,鉄砲の前には主たる場を譲らざるをえませんでした。外科医を騎馬武者にたとえるならば,騎馬武者に鉄砲(カテーテル)を持たせるべきであると思います。鉄砲を持った騎馬武者軍団であれば鉄砲隊をはるかに凌ぐ結果を出せるものと思います。さらにまた近年,騎馬武者に鉄砲どころか機関銃,はたまたロケットランチャーまで持たせることを目標とした教育機関も創設されるようになりました。
TAVIを行う心臓血管外科医の存在が重要である理由トップ5は,以下の通りです。
(1)外科医は解剖を熟知している
何百回,何千回と大動脈弁ならびにその周囲の構造との位置関係,大きさなどを目の当たりにし,また操作することに慣れています。CTや透視画像で見えた映像と実物を頭の中で結びつけることは大変容易であると考えます。
(2)大動脈弁のみならず大動脈や末梢血管の操作経験も豊富
これらを実際に手術したことがあり,どの程度の負担であれば組織にかけることができるかを身をもって体験しています。
(3)大動脈ステントグラフトで大きなシースを挿入することに慣れている
ガイドワイヤー,特にextra-stiffといった硬いワイヤーを使用したり,16~18Frといった大きなシースを操作することに慣れています。
(4)トラブルシューティングが直ちにできる
心臓や血管の損傷にも直ちに対応することができますし,人工心肺チーム,麻酔チームと日頃から手術をしており,コミュニケーションをスムーズにとることができます。
(5)適応を公平に判断することができる
これは最も重要な点です。いずれかの手技しかできなければその手技でなんとかせざるをえませんが,transapical approach,transfemoral approach,さらには外科的AVRすべてができる立場であれば,特定の方法に固執することなく個々の患者に最適と思われる方法を選択することができます。
心臓血管外科研修の段階から,単に開胸・開腹手術のみならずカテーテル操作,ガイドワイヤー操作といった経験,またその知識を習得していくことが大切であると考えます。これらのものをすべてマスターした場合,カテーテル操作のみに習熟した医師よりも高いレベルで患者に貢献できる医師が育つと考えます。今後は,心臓血管外科専門医トレーニングの必須項目としてカテーテル治療などの手技を加えるべきであると思います。