質問の主旨は,COPD患者で気腫化のある・なしで気管支拡張薬の有効性が異なるかどうかということであると理解した。
指摘のように,これまで世界的規模で行われてきたCOPD患者に対する薬剤の有効性試験は,喫煙歴,症状,呼吸機能上の閉塞性障害といった基準で対象患者が選ばれ,通常CT所見は必須ではない。肺胞破壊は気道の外側への牽引力を低下させ,努力呼気時の気道虚脱を起こすので,気管支拡張薬に対する反応性(特に1秒量の改善)は,明らかな気腫化のあるCOPD患者ではどうなのかという質問はごもっともである。
CT所見とも関連させたCOPD患者の気管支拡張薬に対する反応性の検討は,ECLIPSE(Evaluation of COPD Longitudinally to Identify Predictive Surrogate Endpoints)研究のサブ解析データとして2012年に報告されている(文献1)。ここでは1831名のCOPD患者(平均1秒量が1.25L,対予測値1秒量が45%)を対象とし,短時間作用性β2刺激薬(サルブタモール)に対する改善程度を,CTでの気腫化の範囲で5%未満,5~25%,25~50%,50%以上と4段階にわけて比較すると,気腫化の軽いほうから順にそれぞれ,0.15L,0.14L,0.13L,0.09Lと気腫化の範囲が特に50%以上のCOPD患者では1秒量の改善が小さくなるとされている。ただし,β2刺激薬のみの検討であるので,抗コリン薬でも同様かどうかは不明である。
一方,NETT(National Emphysema Treat-ment Trial)研究では,CTで両側に気腫があり,平均の対予測値1秒量が24%と前述のECLIPSE研究よりさらに閉塞性障害の強いCOPD患者を対象としており,短時間作用性β2刺激薬の反応性の検討では有意の1秒量の改善(200mLかつ12%以上)を示す患者の割合は24%と少ないと報告された。しかし,努力肺活量は64%の患者で400mL以上の改善を示した(文献2)。努力肺活量の改善は末梢気道の拡張による残気量の減少によると考えられる。
CT所見ではないが,肺気量が120%以上に増加,肺拡散能が50%以下に低下した機能的に気腫病変優位と判断できるCOPD患者で,対予測値1秒量50%未満の閉塞性障害の強い患者を対象とした短時間作用性β2刺激薬の効果の検討でも,やはり1秒量の変化は少ないものの,機能的残気量や残気量は前値より10~20%有意に低下すると報告されている(文献3)。つまり,COPD患者で気腫病変の範囲が広がれば1秒量で評価する反応性は低下するが,肺の過膨張は大部分の患者で改善する。COPD患者の労作時息切れには,肺の過膨張(肺容量の増加)による呼吸仕事量の増加や最大酸素消費量の低下が関与するので,過膨張の改善は患者の息切れなどの症状改善に加え,運動耐容能や身体活動性の向上をきたすと考えられる。そのため,気腫病変の範囲の広いCOPD患者でも気管支拡張薬の効果は十分期待できると思われる。
もちろん,気腫病変優位型,気道病変優位型(正しくはCTで気腫病変に乏しい患者)にかかわらず,個々人で薬剤に対する反応性は異なるので,症状や呼吸機能の変化を見ながら投与する薬剤を検討することが重要なことは言うまでもない。
付け加えると,喘息患者ほどではないが,COPD患者でも1秒量の日内変動はあるので,短時間作用性気管支拡張薬による気道反応性は,検査の日によって陽性になったり陰性になったりする(文献4,5)。そのため,1度の可逆性検査のみで,短時間作用性気管支拡張薬の有効性は判断できないという点にもご注意頂きたい。
【文献】
1) Albert P, et al:Thorax. 2012;67(8):701-8.
2) Han MK, et al:Eur Respir J. 2010;35(5):1048-56.
3) O’Donnell DE, et al:Eur Respir J. 2001;18(6):914-20.
4) Calverley PM, et al:Thorax. 2003;58(8):659-64.
5) Hanania NA, et al:Respir Res. 2011;12:6.