No.4697 (2014年05月03日発行) P.68
光畑裕正 (順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター麻酔科・ペインクリニック教授)
登録日: 2014-05-03
最終更新日: 2016-12-12
【Q】
局所麻酔薬による異常反応の原因として,刺激性や心因性が大半であると言われるが,中には添加されている血管収縮薬や保存薬が原因となる場合もあるという。血管収縮薬として添加されているエピネフリン(アドレナリン)は,アナフィラキシーショックの治療に使用されているにもかかわらず,なぜ原因物質となる可能性が示唆されているのか。 (愛知県 N)
【A】
局所麻酔薬投与時の合併症としてはアナフィラキシー,局所麻酔薬中毒(文献1),添加アドレナリンの血管内注入,心因性反応または迷走神経反射による症状発現(失神)がある(表1)。
局所麻酔薬中毒は局所麻酔薬が血管内に誤投与されたときや,局所麻酔薬の使用量が極量を超え血管内に吸収されたときの血中濃度上昇による全身的な急性反応である。このとき,中枢神経症状と循環器症状がみられる。
局所麻酔薬中毒の疑いがある場合には,血圧上昇の有無を頻回に確認する。血中濃度のそれ以上の増加がなければ,自然と血圧は低下するが,そうでなければ強直性間代性の全身痙攣が発症することがある。中枢神経症状として多弁・多動などの症状が発現した場合,局所麻酔薬中毒を疑う。静脈内投与されたときには耳鳴り,聴力低下を訴えることが多い。
(1)有害事象の原因別対応法
アナフィラキシーの頻度は非常に少ないが,局所麻酔薬そのものによるものと保存薬によるものとがある。皮膚粘膜症状・所見,血圧低下,気管支痙攣がみられた場合は,アナフィラキシーを疑う。直ちに高流量酸素(10~12L)とアドレナリン,補液を投与する。アドレナリンが第一選択薬である。
迷走神経反射によるものでは血圧低下や徐脈がみられ,アナフィラキシーとの鑑別としては皮膚粘膜症状・所見がみられない。
添加アドレナリンによる合併症は,アドレナリンそのものが血管内に投与されたことによる全身的な薬理学的症状,すなわち振戦,めまい感,動悸・頻脈,不安感,頭痛,血圧上昇,不整脈,冠不全などである。アナフィラキシーのような有害事象とはその発症機序が根本的に異なる。
(2)局所麻酔薬にアドレナリンが添加される理由
局所麻酔薬にアドレナリンを添加する理由は,アドレナリンのα作動作用により末梢血管床を収縮させ,その結果,局所麻酔薬の吸収を遅らせ,局所麻酔薬の作用時間を延長させるとともに,局所麻酔薬の全身反応を減少させるためである。しかし,局所麻酔薬へのアドレナリン添加の効果,すなわち末梢神経ブロック時の知覚遮断時間の延長に関してはいまだ議論があり,明確なエビデンスはない(文献2)。
添加アドレナリン濃度に関しては,市販薬では1/10万の濃度が既に添加されているが,1/20万でもその効果には変わりがないとする報告もあり(文献3),アドレナリン添加の副作用であるアドレナリンの全身的反応を防ぐ上では1/20万が好ましいと考えられる。
また,指趾への神経ブロック(オーベルスト麻酔法)のときには終末動脈を収縮させるため指の壊死が起こる可能性があることから,アドレナリン添加局所麻酔薬の使用は禁忌であるとされていた。しかし,最近の臨床研究結果では,このような考えは否定されており,指趾の神経ブロック時にも使用することは禁忌ではないとされている(文献4,5)。
1) Harmatz A:Surg Clin North Am. 2009;89(3):587 98.
2) Wiles MD, et al:Anaesthesia. 2010;65 (Suppl1):22-37.
3) Morganroth PA, et al:J Am Acad Dermatol. 2009; 60(3):444 52.
4) Krunic AL, et al:J Am Acad Dermatol. 2004;51 (5):755 9.
5) Chowdhry S, et al:Plast Reconstr Surg. 2010;126 (6):2031 4.