【Q】
厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」があり,保健所はこれをもとに指導しているが,定められた検便をしなかった場合はどのような罰則があるのか。(鹿児島県 Y
【A】
「大量調理施設衛生管理マニュアル」(平成9年3月24日付け衛食第85号別添・最終改正平成25年10月22日付け食安発1022第10号,http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/gyousei/dl/131106_02.pdf)は,集団給食施設などにおける食中毒を予防するために,HACCP〔Hazard Analysis and Critical Control Point:危害分析重要管理点,または危害要因分析(に基づく)必須管理点〕の概念に基づき,調理過程における重要管理事項として,
(1)原材料受け入れおよび下処理段階における管理を徹底すること
(2)加熱調理食品については,中心部まで十分加熱し,食中毒菌など(ウイルスを含む。以下同じ)を死滅させること
(3)加熱調理後の食品および非加熱調理食品の二次汚染防止を徹底すること
(4)食中毒菌が付着した場合に菌の増殖を防ぐため,原材料および調理後の食品の温度管理を徹底すること(以下略)などを示したものである。
その法的性質は,厚生労働省から出された大量調理施設の衛生管理について指針を示した通知(講学上は「通達」という)であり,これに基づき行政が大量調理施設の衛生管理を指導するものである。
もちろん通達が,行政機関において,上級機関が下級機関に対し,指揮監督関係に基づきその機関の所掌事務について示達する法的手段にすぎないことから,法律や法律の委任を受けた政令などのように国民の権利義務を定めることができないがゆえに,ご質問にあるように,ガイドラインの「調理従事者等の衛生管理」で定める検便を怠ったことを理由として,直接に処罰を受けることはない。ただ,ご質問の罰則があるかの文言を,広義の何らかのサンクション(制裁)や法的不利益を受ける可能性を示したものと読めば,いろいろと考慮することは可能である。
まず,刑事事件としては,定められた検便を怠ったため調理施設由来による甚大な食中毒事件を発生させた場合,それが過失によるものと判断されれば,業務上過失致死傷罪など(刑法第211条)で立件される可能性が出てくる。
民事上は営業主,衛生管理者などの関係者は,不法行為や債務不履行で損害賠償請求を受け有責になる可能性も出てくる。さらに行政法上にても,飲食業の営業停止の行政処分を受ける危険があり,特に医療機関ならば保険医療機関の指定などについて考慮する要素とされる危険などがあろう。