【Q】
乾布摩擦は自律神経を鍛え,風邪をひきにくい体質をつくると言われているが,実証的研究はあるか。また,生理化学的レベルでどのようなメカニズムを経て有効性を獲得するのか。
(滋賀県 M)
【A】
乾布摩擦は特別な道具を使うことなく手軽に行うことができるので,古くから日本だけでなく世界で広く行われている。摩擦方法には様々な手技〔摩擦の部位,程度(軽度,中等度),時間など〕がある。乾布摩擦には刺激負荷部位への直接的作用のほかに,全身的にリラックスさせて不眠・不安・抑うつを改善,疼痛を緩和,免疫機能を亢進する作用がある。近年,相補・代替療法として行われているが,その作用機構は迷走神経(副交感神経)緊張によるとされている。
血流変化をよく表す手掌側・指尖皮膚表面温度(表皮温)をサーモグラフィ(文献1)により調べた,腹臥位の状態で頸・胸背部を軽摩擦(3分間負荷を3日ごと3回)するスウェーデン方式の作用(文献2)が報告されている。詳細は図1に示す通りである。表皮温は,摩擦中に軽度変化(第一反応)し,摩擦終了に続いて10分以上も上昇(第二反応)するが(図1a),その反応は初回負荷時より3回負荷時にいっそう顕著になり,自律神経機能が亢進する(図1b)。
皮膚に加えられた機械的な軽摩擦刺激が知覚受容体(触覚,痛覚,圧覚)で感知され,求心性末梢神経から脊髄,視床を経て,大脳皮質の知覚中枢に伝達されて第二反応の迷走神経緊張が起こるが,その途中の脊髄と視床のシナプスを介して反射的に第一反応(軽度の交感神経緊張)が起こる。
軽摩擦の作用には,上記で示したような自律神経を介する作用機序のほかに,内分泌中枢の視床下部から副腎皮質に作用し,コルチゾール分泌が低下する内分泌経路(文献3,4)もあるが,その作用は軽微である。
摩擦刺激によるこのような作用の出方は,摩擦の程度,部位(重要な血管,神経がある頸部など),虚弱な子ども・高齢者,脳血管疾患・心臓疾患などの罹病者,さらに治療中の服用薬によって変わってくるので,医師,リハビリ専門家の指導,処方のもとで行われることが望ましい。
ちなみに,摩擦療法による副作用として脳血管障害,血栓(腎),肺塞栓症,偽大動脈瘤,皮膚潰瘍,骨筋肉の障害などが報告されている(文献5)。
1) 河野伸造:Biomed Thermol. 2002;22(2):39-49.
2) 宮城ヒデ子, 河野伸造, 他:Biomed Thermol. 1999; 19(3):110-5.
3) Moyer CA, et al:J Bodyw Mov Ther. 2011;15 (1):3-14.
4) Field T, et al:Int J Neurosci. 2005;115(10): 1397-413.
5) Ernst E:Rheumatology (Oxford). 2003;42(9): 1101-6.