【Q】
肺非結核性抗酸菌症の治療開始時期と専門医紹介のタイミングについて。
(福岡県 S)
【A】
日本結核病学会と日本呼吸器学会合同の「肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解─2012年改訂」では,治療開始時期について,以下のように記載されている(文献1)。
「治療開始時期は従来暗黙に診断基準合致が治療開始時期とされてきたが,日米双方とも診断基準合致は即治療開始ではないという立場を表明し,治療開始時期は別個に決めるべき要件になった。一般論としては早期診断,早期治療がより望ましいと思われるが,副作用を考慮したうえで現行の化学療法をいつ開始するのが妥当なのかは明確な根拠がいまだなく,臨床医の総合的な判断に依存する。以上の問題や外科適応も含め,治療全般に関して専門医へ一度相談しておくことが望まれる」
このように表記されているのは,肺非結核性抗酸菌症は,いつの段階で治療を開始すれば転帰が良いのかというエビデンスが得られていないからである。
結核症のように,数年間で最終的な転帰が明らかになる疾患と異なり,進行が緩徐で最終的な帰結は数十年間経ないとわからない肺非結核性抗酸菌症では,エビデンスを得ることが非常に困難ということは明らかである。
この問題に関して討議した第88回日本結核病学会総会特別講演では,以下のように見解が提示された(文献2)。
A. 診断後すぐに治療すべき症例
a. 空洞形成を伴う線維空洞型症例
b. 結節・気管支拡張型症例でも病変の範囲が一側肺の1/3を超える症例,気管支拡張病変が高度な症例,塗抹排菌量が多い症例,血痰・喀血症状を呈する症例
B. 診断後経過観察としてよい症例
a. 結節・気管支拡張型症例で,病変の範囲が一側肺の1/3以内で気管支拡張病変が軽度,かつ自覚症状がほとんどなく喀痰塗抹が陰性の症例
b. 75歳以上の高齢者
診断後すぐに治療すべき症例については多くが異論なく同意すると思うが,実際に迷うのは前掲Bのa群である。
これらについて,疾患経過を反映するバイオマーカーでの検討や画像の定量的な評価などによる研究が進行中であるが,まだ明確な結論には至っていない。
専門医への紹介タイミングは,喀血持続例,外科適応検討として比較的若年の有空洞例や,急速な進展例,薬剤副作用での服薬困難例などに遭遇したとき,が挙がると思われる。
【文献】
1) 日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会, 他:結核. 2012;87(2):83-6.
2) 小川賢二:結核. 2014;89(2):61-5.