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急性呼吸不全や心肺蘇生時における静脈血ガス分析の有用性

No.4749 (2015年05月02日発行) P.63

古川力丸 (日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野)

木下浩作 (日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野教授)

登録日: 2015-05-02

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

急性呼吸不全や心肺蘇生時の静脈血ガス分析の有用性についてご解説下さい。心肺蘇生時のように血行動態が不安定な患者では,動脈血が末梢の酸塩基平衡を反映しないため,静脈血でのガス分析が有用という意見がありますが,いかがでしょうか。また,急性呼吸不全の患者の管理において静脈血ガス分析の有用性はあるのでしょうか。日本大学・古川力丸先生にご教示をお願いいたします。 (大阪府 T)

【A】

心肺蘇生時には,採取した血液の動静脈の判断が困難なことが多く,文献結果の解釈には注意を要します。動脈ライン・中心静脈ラインを確保された状態での心肺停止の自験例では,明らかなPO2の相違を認めましたが,pHやHCO3-などの酸塩基平衡異常の判断には差を認めませんでした。このように,確実に動静脈の判別ができる状況は非常に限られており,通常の心肺蘇生の臨床における「静脈血ガス分析」の有用性についての評価は不明,もしくは限局的と考えられます。
また,静脈血の採取部位,採取方法についても注意が必要です。駆血帯を巻き,前腕・手の激しい運動をした後の肘静脈での静脈血ガスでは,著しい混合性アシドーシスと乳酸値の上昇を認めました(健常人での自験例)。静脈血ガスおよび乳酸の評価では,駆血帯をせずに採血をしている研究もあります。
理論的に静脈血二酸化炭素分圧(PvCO2)は動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)よりも高いのですが,動静脈の血液ガスに関する比較的新しい文献(文献1)(文献2)によると,pHやHCO3-は動静脈で比較的一致するものの,PvCO2とPaCO2の相関は一般に考えられているよりも弱いことが示されています。PvCO2は通常PaCO2よりも高いものの,必ずしもそうとは言えず,また高い場合でもPaCO2の高さの程度を表しません。前述の文献では「PvCO2≦45mmHgであれば,PaCO2は50mmHgを超えない」と結論づけられています。
急性呼吸不全症例での呼吸の評価を目的とした静脈血ガス分析の場合,吸入酸素濃度はわかっている場合が多く,またSpO2 も日常的にモニタリングされているため,求められる評価項目は換気と酸塩基平衡が中心ということになります。上記の注意点はありますが,比較的有用な検査であると言えます。もちろん,適時に精密な評価としての動脈血ガス分析を組み合わせる必要はあります。
引用文献では,静脈血ガス分析の有用性は限局的とされていますが,欧米諸国では通常の採血検査で酸塩基平衡評価としてHCO3-や総CO2の測定が行われています。しかし,日本ではこれらの検査が日常的には行われておらず,酸塩基平衡異常の評価のための静脈血ガス分析の重要性は欧米に比べ大きいと考えられます。

【文献】


1) Byme AL, et al:Respirology. 2014;19(2):168-75.
2) Bloom BM, et al:Eur J Emerg Med. 2014;21(2):81-8.

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