【Q】
上肢で静脈採血・注射する場合,注射針は末梢から中枢方向に刺入します。血液の流れを考えると,中枢から末梢方向に刺入するほうが理に適っていると思われますが,そのようにしても問題ないのでしょうか。 (東京都 F)
【A】
周知のごとく,静脈は動脈に比べ血管壁が薄く,内圧が著しく低くなっています。そのため静脈から採血したり,点滴を留置する場合,血管を怒張させるために駆血帯を使用する必要があります。駆血することにより,末梢側から中枢側方向へ流れていた血流は中枢側から徐々にせき止められ,うっ滞します。これにより血管内圧は上昇し,血管径は保たれ,採血や注射針留置が可能となります。この際,最も血管内圧が高くなるのは駆血部位の直下で,末梢側にかけて徐々に内圧は低くなります。静脈は動脈と異なり血圧がなく,心臓と同様の高さであればその圧はほぼ無に等しいため,採血するには陰圧をかける必要があります。そうすると,少しでも圧が高いところから採血することが望ましいと思われます。
以上から,従来のように末梢側から中枢側に向けて針を刺すほうが理に適っていると言えます。
また,採血に続けて注射針を留置して薬剤を投与する場合,中枢側から末梢側に針の方向を向けると,血液の流れに逆流して薬剤を投与することになるため,望ましくありません。さらに実際の現場を考えてみると,中枢側から刺入するということは,患者と同方向を向いた状態で施行しなければならず,手技的に非常にやりにくいことが想像されます。
以上の理由から,従来通りの方法で採血・注射を行うことを推奨します。