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潰瘍性大腸炎手術後の回腸嚢炎

No.4759 (2015年07月11日発行) P.63

荒木俊光 (三重大学大学院医学系研究科生命医科学専攻 臨床医学系講座消化管・小児外科学講師)

楠 正人 (三重大学大学院医学系研究科生命医科学専攻 臨床医学系講座消化管・小児外科学教授)

登録日: 2015-07-11

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

潰瘍性大腸炎手術後の回腸嚢炎(pouchitis)について次の点をご教示下さい。
重症潰瘍性大腸炎患者に対して,外科的治療として大腸全摘出,回腸嚢形成,回腸嚢肛門(もしくは肛門管)吻合術,一時的人工肛門造設術が2期,もしくは3期的に行われています。
(1) 潰瘍性大腸炎手術後の回腸嚢炎は,どの程度の頻度で,いつ頃起こるのでしょうか。
(2) どのような発症メカニズムが考えられているのでしょうか。抗菌薬の治療で治癒するものと,慢性化し回腸嚢切除にまで至る例との差異は何ですか。
(3) 術式と発症との関係はありますか。直腸が残存した例や肛門管が温存された例は,肛門歯状線と直接吻合した例に比べて高率に起こるのでしょうか。回腸嚢が大腸化して潰瘍性大腸炎と同様の病態が嚢内に起こるという考えは適切と言えますか。 (山梨県 S)

【A】

(1) 潰瘍性大腸炎手術後の回腸嚢炎の頻度と症状
発症頻度は報告によって様々ですが,潰瘍性大腸炎手術後の回腸嚢炎は10~70%の患者に発症し,そしてその約半数は術後6カ月以内に発症すると言われています。
近年では潰瘍性大腸炎に対する内科的治療の進歩に伴い,手術適応となる患者がより重症例に限定されてきている影響か,回腸嚢炎の発症率は増加傾向にあります。
その症状は,診断基準にも含まれる排便回数の増加,血便,便意切迫または腹痛,37.8℃以上の発熱などで,術前の症状に近いものと言えます。
(2)発症メカニズムと慢性化症例の傾向
回腸嚢炎に対する治療に抗菌薬が有効であること,特にニューキノロン系抗菌薬の中でも腸管からの吸収率が低く,回腸嚢内に直接作用すると考えられているシプロフロキサシンが第一選択となっていることからも,この病態の発症メカニズムに細菌の関連が強く示唆されています。
慢性化は,術前のステロイド投与量が多いことと関連していると言われています(文献1)。そのほかには潰瘍性大腸炎の若年発症例,重症例あるいは腸管外合併症例など,潰瘍性大腸炎そのものの病勢が強い患者ほど慢性化する傾向があるとされています。
慢性化し,抗菌薬治療に抵抗性のある回腸嚢炎に対してはステロイドやアザチオプリンが使用されます。近年では抗TNF-α抗体も使用され,高い治療効果を示しています。このように,ほぼ保存的にコントロールが可能であり,最終的に回腸嚢切除が必要となる症例はほとんどが吻合部狭窄,吻合部瘻,回腸嚢瘻,骨盤内膿瘍などに起因する二次性回腸嚢炎(文献2) です。よって,治療抵抗性回腸嚢炎を経験した際には,これらの原因を念頭に置いた検査が必要です。
(3)術式と発症の関係
いくつかの論文で回腸嚢肛門管吻合のほうが肛門吻合より回腸嚢炎発症率が高いことが報告されています。また,肛門管吻合の中でも残存直腸炎が認められる場合には,認められない場合と比べて回腸嚢炎の発症率が高いとされています。
回腸嚢炎の発症メカニズムの1つとして,回腸嚢内での便の滞留による細菌異常繁殖が考えられています。肛門管吻合ではこのような便の滞留が起こりやすいことが関与すると推測されます。また,肛門吻合でも吻合部狭窄をきたしている例では回腸嚢炎の発症率が高い傾向にあります。
術後4週間以内に回腸嚢炎が発症する例もあります。これらはより高い活動性を示す(文献3)ことからも,回腸嚢の大腸化より,むしろ回腸粘膜自体の免疫反応がその病態の原因であると考えられます。

【文献】


1) Okita Y, et al:Digestion. 2013;88(2):101-9.
2) Toiyama Y, et al:World J Gastroenterol. 2005;11(43):6888-90.
3) Okita Y, et al:J Gastrointest Surg. 2013;17(3):533-9.

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