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乳癌・子宮癌既往者の骨粗鬆症に対する治療

No.4766 (2015年08月29日発行) P.63

林 直輝 (聖路加国際病院ブレストセンター副医長)

登録日: 2015-08-29

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

乳癌・子宮癌既往者の骨粗鬆症に対する選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)に関して,既に治癒している場合や,状態が安定している場合の対応をご教示下さい。乳癌の場合は,エストロゲンを調節する薬はどのように作用すると考えられるのでしょうか。 (大阪府 I)

【A】

骨粗鬆症の治療において,乳癌と子宮癌の既往は別々に考える必要があります。
乳癌の術後療法として用いられる抗ホルモン剤は,主にSERMの1つであるタモキシフェンとアロマターゼ阻害薬の2種類にわけられます。
それぞれの薬剤で作用機序が異なり,タモキシフェンはエストロゲン受容体に結合することでエストロゲンの機能抑制に働きます。一方,アロマターゼ阻害薬はアンドロゲンから分泌されるエストロゲンの合成阻害として働きます。
閉経前であればタモキシフェン,閉経後であればアロマターゼ阻害薬と使いわけます。しかし,それぞれの薬剤で副作用が異なるので,閉経後でも患者の併存疾患などによりタモキシフェンを用いることがあります。
乳癌の罹患頻度は40歳代と60歳代で高く,二峰性を示しています。特に閉経後は女性ホルモンが減少して骨粗鬆症になりやすくなる時期と重なっている上に,女性ホルモンを抑えるアロマターゼ阻害薬を使うことでさらにリスクは高くなるので,定期的な骨密度測定と管理が必要になります(文献1,2)。しかし,ATAC(Arimidex,Tamoxifen Alone or in Combination)試験の結果より,アロマターゼ阻害薬使用中の患者に対し骨粗鬆症の治療目的のSERMの同時投与は有害事象が増加し,抗がん作用としての効果を下げる可能性があるので,SERMを用いずにビスホスホネートの使用を考慮する必要があります。乳癌術後抗ホルモン剤治療終了後であればSERMの使用に問題はありません。
子宮癌の既往に関しては,子宮頸癌であるのか体癌であるのか,手術は子宮全摘出術が行われているか否かを知る必要があります。メタアナリシスではタモキシフェン5年投与により子宮体癌のリスクが1000人当たり3人から11人に増えることが報告されています(文献3)。しかし,これらも悪性度の低いがんであることが多く,閉経前患者に関してはリスクが上昇するという根拠はありません。このため,子宮体癌の既往があり,子宮が温存されている患者にはタモキシフェンの投与は行いません。子宮全摘出術が施行されているのであればタモキシフェンによる子宮体癌のリスクを考慮する必要はありません。
また,両側卵巣摘出術が行われているか否かという点も重要です。両側卵巣が摘出されていれば閉経状態となるので,アロマターゼ阻害薬の適応になります。

【文献】


1) 林 直輝, 他:BONE. 2015;28(4):429-34.
2) 上野直人, 他:チームで学ぶ乳癌の骨マネジメント. 中村清吾, 他, 編. 篠原出版新社, 2011.
3) Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group:Lancet. 1998;351(9114):1451-67.

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