【Q】
先天性鼻涙管閉塞に対してブジー治療を行う時期や適応など(成書によってまちまちである)を教えて下さい。 (埼玉県 S)
【A】
先天性鼻涙管閉塞とは,涙点から涙嚢,鼻涙管を通って鼻に抜ける涙道のどこかに膜様の閉塞がある状態のことを指します。この閉塞が解除されれば治り,自然治癒も期待される病気です。
生後すぐはわからないものの,数日で目やにが増えたことを小児科医あるいは産婦人科医により指摘されることが多くあり,通常は抗菌点眼で治ります。閉塞の強い患児は,1カ月ほどしてまた目やにが増えてきた,もしくは生まれてからずっと涙目である,という訴えで診察にやってこられます。
当院の方針ですが,生後3カ月目くらいまでの年齢が若い患児は,涙小管があまりにも細いので,ブジー治療を行わずに経過を見ることが多いです。その間は,抗菌点眼をして,涙嚢マッサージを試してもらいます。そして,3~6カ月くらいの年齢になったときに再診します。6カ月以上の年齢になると,首の力が強くなるので,通水やブジーなどの手技が難しくなります。通常,処置室で点眼麻酔をした後,看護師に頭部を保持してもらって処置することになります。ブジー治療がうまくいくと,閉塞していた膜様組織にプツンと孔があくような感覚があります。最後に通水をして通過を確認し,抗菌薬の点眼をして,その日の処置は終了となります。
非常に稀ですが,ブジー治療後に敗血症になってしまった子どもの報告(文献1)もありますので,術後の発熱には注意することを保護者に伝えます。次回は2週間~1カ月後に再診してもらい,経過を尋ねます。
筆者らの経験では,ブジー1回目で成功しないことが10人中2~3人あります。このとき,1回目のブジーでかなり困難であったならば,経過観察を行い,場合によってはもう1回ブジーを施行しますが,このトライは2回目までにしておいたほうがよいようです。難易度が高い症例の場合,涙小管や鼻涙管を損傷したり,仮道をつくったりする可能性がある(文献2)からです。
1988年,英国で大規模な前向きコホート研究(4792人)が行われて,その結果,12カ月まで待つことで96%が治癒すると報告(文献3)されました。その結果をもとに,わが国でも少し待ってみてもいいのではないかという考えが広まりはじめています。ある臨床研究(文献4)では,1回目で治癒できなかったと紹介された症例を含めて,18カ月まで待つことで,78%の自然治癒があったと報告されています。その後も流涙が続くならば,全身麻酔下で内視鏡を使ったプロービングが勧められています。
日本眼科学会のホームページでも,現在のところ時期や適応など治療がまちまちであると書かれています。現在の流れとしては,6カ月くらいまでは待ってみて,その後はそのまま待つのもよいし,ブジー治療を行ってもよいが,複数回にわたる盲目的ブジー治療は避けたほうがよく,その場合は内視鏡設備のある専門家に診てもらうのがよいと考えます。
【文献】
1) Fergie JE, et al:Pediatr Infect Dis J. 2000;19(10):1022-3.
2) Lyon DB, et al:Ophthalmic Surg. 1991;22(4):228-32.
3) MacEwen CJ, et al:Eye(Lond). 1991;5(Pt 5):596-600.
4) 林 憲吾, 他:日眼会誌. 2014;118(2):91-7.