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iPS細胞を用いた腎疾患研究の最前線

No.4732 (2015年01月03日発行) P.100

長船健二 (京都大学iPS細胞研究所増殖分化機構研究部門教授)

登録日: 2015-01-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

山中伸弥教授により開発されたiPS細胞を用いて眼科領域の治療が行われ,再生医療への期待が高まっています。一方,末期腎不全患者は現在も増加傾向にあり,患者さんのQOLや予後の改善,医療費削減のためにも,画期的な治療法の開発が切望され,iPS細胞技術に期待が集まっています。腎臓領域のiPS細胞研究の第一人者である京都大学・長船健二先生に,研究の現状と展望についてご教示をお願いします。
【質問者】
森本 聡:東京女子医科大学高血圧・内分泌内科准教授

【A】

現在,iPS細胞から様々な臓器の細胞種が作製可能となっており,網膜,神経,心筋,血液細胞などでは細胞移植療法(狭義の再生医療)の臨床応用に向けて研究が進められています。一方,腎臓は発生過程やその構造が複雑であることから,ほかの細胞種に比べiPS細胞から腎細胞を作製する研究は遅れています。
しかし,近年,ヒトiPS細胞から腎臓を派生させる胎生組織である中間中胚葉や胎児期の腎細胞の一部を分化誘導する方法が世界の複数の研究グループから発表され,胎児腎細胞から糸球体と尿細管を含む腎組織の作製も可能となっています。
そして,今後の研究目標として,糸球体や尿細管などの成体腎細胞を選択的に作製する方法の開発や,血管と統合した糸球体や集合管を含む腎組織の作製が挙げられます。また,iPS細胞由来の腎細胞や腎組織の移植による再生医療の開発も期待されます。
一方,再生医療に加えて,ヒトiPS細胞の誕生により疾患モデル作製研究(disease modeling)と呼ばれるまったく新しい疾患研究が可能となり,現在,世界中で様々な臓器の疾患で盛んに研究が行われています。それは,まず難治性疾患の患者さんの体細胞から疾患発症の遺伝情報を有する疾患特異的iPS細胞を樹立し,そのiPS細胞を病気で障害される細胞種へ分化誘導します。そして,患者さんの体内で起こっている病態を培養皿上で再現する系を構築することによって,病態解析や治療薬探索を行う研究のことです。
腎疾患領域においても,常染色体優性多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney dis-ease:ADPKD),ループス腎炎,ウィルムス腫瘍などの患者さんの体細胞からiPS細胞の樹立が報告されていますが,前述の通り腎細胞の分化誘導法が未確立のため,現在までのところ腎病変モデルの作製および解析を行った報告は存在しません。iPS細胞を用いた疾患モデル作製研究が進展すれば,これまで治療法のなかった難治性腎疾患に対する新規の治療薬が開発されることも期待できます。そのために,一日も早くiPS細胞から腎細胞への分化誘導法が確立されることが望まれます。

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