【質問者】
河野有香 ホーチミンインターナショナル SOSクリニック
海外在留邦人数が増加する中,シンガポールでは日本人医師が30人以上臨床に携わっています。二国間協定に基づいて,日本人の医師枠としては30人まで限定でシンガポールでの医師免許を持つことができます。限定というのは,シンガポール人医師のスーパーバイズのもとで,日本人相手の外来診療のみに携わることができるということです。限定免許交付において試験などはありませんが,何かあればスーパーバイザーの責任も問われることもありえるので,ある程度の質の担保になります。
シンガポールでは限定医師免許を持つ医師に限らず,全医師がCME(継続教育)の単位を取得することが必要で,単位を取得することができなければ免許の更新はできないようになっています。シンガポールは日本に比べて医療者への情報伝達がスムースであるように感じます。ジカ熱が報告すべき疾患に決まったその日のうちに,全登録医に電子メールで連絡が来ました。日本がジカ熱を4類感染症と決定する数週間前のことで,グローバルな感染症に対する安全保障のプリペアドネス(preparedness)の違いを感じます。
シンガポールや周辺国の邦人の診療に関わるのは日本人医師だけではありません。より専門的なことや入院治療になれば,限定免許ではない医師の診療となります。シンガポールでは周辺国からの受診や入院も多く,私が所属する病院では4割が海外からの入院であるとのことです。利益を出さなければならない私立病院が,世界的な認証のひとつであるJoint Commission International(J CI)の認証を取得することは当然としても,国立の精神神経センターや循環器センターもJCIの認証を取得しており,大規模な診療所グループもプライマリケアでのJCI認証を取っています。医師のキャリアとしては専門医志向がみられ,専門医の収入に反映されているために質の担保に役立っていそうにも感じています。
私自身は,上海で勤務しているときのCMEはもっぱらインターネットでした。現在は同僚専門医によるフィードバックに恵まれていますし,Graduate Diploma in Family Medicine(GDFM)以外にも様々なプログラムがあり,個人の質の担保の機会に恵まれています。勤務先も医療者のprofessional developmentをサポートしてくれるので,金銭的な補助もあり助かっています。
【回答者】
林 啓一 ラッフルズジャパニーズクリニック