リンパ節郭清の範囲は?
癌の手術ではその領域のリンパ節転移,あるいは転移する可能性のあるリンパ節を根こそぎ取り去る(郭清)ことが,術後の遠隔成績を向上させると考えられてきた。
縮小手術の台頭
乳癌の領域では,既にリンパ節転移はある程度の範囲に広がると,リンパ節郭清には意味がないことが示され,切除範囲やリンパ節郭清範囲もごく限られた方向に向かっていた。乳癌のような考え方はすべての癌に受け入れられたわけではないが,この背景には,乳癌には外科手術以外にも化学療法,ホルモン療法,放射線療法など,有効な手段があったことがある。
拡大郭清の流れ
胃癌の場合,1970年代まではリンパ節郭清は胃に付着した1群リンパ節と,胃に分布する主要な血管に沿った2群リンパ節を郭清するD2郭清手術が標準とされていた。しかし,技術的進歩に伴い,リンパ節郭清の範囲をさらに広げるD3郭清が試みられるようになっていた。
EBMの概念が外科領域にも影響を与え,D3郭清の効果を検証する研究JCOG9501が立ち上がった。その結果(文献1),D3郭清の有用性は否定された。この結果を受けて2010年,日本胃癌学会の『胃癌治療ガイドライン』でも,進行胃癌に対してはD2郭清が標準となった。リンパ節転移に関しては拡大郭清手術から周術期の化学療法へと,臨床研究の方向性が大きく転換した。
1) Sasako M, et al:N Engl J Med. 2008;359(5):◆453-62.