No.4703 (2014年06月14日発行) P.60
外 須美夫 (九州大学麻酔・蘇生学教授)
登録日: 2014-06-14
最終更新日: 2016-10-26
筋弛緩薬は全身麻酔に欠かせない薬物である。気管挿管時の喉頭痙攣予防や術中の不動化などを主な目的として使用されている。筋弛緩薬は,安全な麻酔に不可欠であるが,手術終了後は速やかにその作用が消失することが望ましい。しかし,時に手術後に筋弛緩薬の作用が残存し,呼吸抑制が遷延することがある。
麻酔科医は術後に筋弛緩作用が残存している場合,作用が消失するまで待つか,筋弛緩作用に対する拮抗薬を使用する。これまで,拮抗薬として使われてきたのは,アセチルコリン(ACh)の分解を阻害する抗コリンエステラーゼ薬である。しかし,この薬剤では拮抗が不十分であったり,徐脈を起こすなどの問題があった。
そこで,筋弛緩薬の新しい拮抗薬として登場したのがスガマデクスである(文献1)。スガマデクスは抗コリンエステラーゼ薬とはまったく異なる機序で筋弛緩薬の効果を消失させることから,筋弛緩回復薬とも呼ばれている。スガマデクスは,非脱分極性筋弛緩薬,特にロクロニウムと1:1の複合体を形成(包接作用)し,ロクロニウムがACh受容体に結合できなくするとともに,血液中の非結合ロクロニウム濃度を急速に減少させ,筋弛緩効果から迅速に回復させることができる。
スガマデクスはほぼ完璧に筋弛緩作用を消失させてくれるし,副作用がほとんどないので安心して使用できる。ただし高価な薬剤なので,筋弛緩モニターで筋弛緩状態をモニターして必要な時だけに使用するべきだろう。
1) 武田純三 編:スガマデクスの基礎と使い方. 真興交易医書出版部, 2010.