膜性腎症はネフローゼ症候群をきたす糸球体疾患の1つであり,糸球体基底膜の上皮側に免疫複合体が沈着することで,大量の蛋白尿が出現する。特発性と続発性があり,後者は全身性エリテマトーデス,B型肝炎,薬剤(ブシラミン,金製剤など),悪性腫瘍などに伴って生じる。
特発性については,古くからその原因となる抗原が探索されてきたが,2009年に米国のSalantらのグループにより,その主要な抗原としてM型ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)が報告された(文献1)。彼らは特発性膜性腎症患者の約70%の血清中に,PLA2Rに対する自己抗体が存在することを見出し,さらにPLA2Rが糸球体上皮細胞に存在することを示した。
その後,世界各国で検討され,特発性膜性腎症患者の,欧米では60~80%,中国,韓国では70~80%が抗PLA2R抗体陽性になることが報告されている(文献2)。わが国においても,厚生労働省の進行性腎障害研究班で検討されたが,陽性率は約50%と海外諸国よりはやや低いようである(文献2)。
ELISA法による血清中抗PLA2R抗体の測定は,十分量のPLA2R蛋白を得るのが容易ではないことから,まだ限定された施設でのみの施行であるが,今後測定システムが普及することで,特発性膜性腎症の血清学的診断も可能になるものと思われる。また,抗PLA2R抗体の発見を契機に,特発性膜性腎症の発症・進展機序の解明が進み,より優れた治療法が開発されることが期待される。
1) Beck LH Jr, et al:N Engl J Med. 2009;361(1): 11-21.
2) 丸山彰一, 他:腎と透析. 2014;76(1):25-30.