HAPO Study(文献1)に基づき, 26年ぶりに妊娠糖尿病(GDM)の診断基準の大改訂が行われ,2010年7月から世界共通基準が使用されるようになった。新基準ではGDMは「妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常である。妊娠時に診断された明らかな糖尿病は含めない」と定義された。この新診断基準の大きな変更点の第一は,従来は75gOGTTで前値100mg/dL,1時間値180mg/dL,2時間値150mg/dLのカットオフ値の2ポイント以上陽性の場合GDMと診断したが,新基準では前値92mg/dL,1時間値180mg/dL,2時間値153mg/dLに変更され,しかも1ポイント以上陽性でGDMと診断することになった。第二は,妊娠時に診断された明らかな糖尿病の概念が取り入れられたことである。カットオフ値変更の理由は,旧診断基準ではエンドポイントを将来の糖尿病発症にしていたが,新診断基準では今回の妊娠中の周産期合併症の発生の有無にしたためである。新基準採用により,全妊婦に75gOGTTを施行した際のGDMの頻度は2.92%から12.08%へ4.1倍に増加する。
GDMに対する妊娠中の管理は食事療法とインスリン治療が主であるが,近年超速効型インスリンの使用が増加し,患者QOLの向上に寄与している。また,GDM妊婦では正常妊婦の7.43倍という高頻度で将来糖尿病が発症する(文献2)ため,厳格なフォローアップが必要である。GDM妊婦から生まれた児の将来の糖尿病,メタボリックシンドローム発症予防には,母乳栄養が重要であることが再注目されている。
1) HAPO Study Cooperative Research Group:N Engl J Med. 2008;358(19):1991-2002.
2) Bellamy L,et al:Lancet. 2009;373(9677):1773-9.