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iPS細胞のがん化

No.4729 (2014年12月13日発行) P.46

汐田剛史 (鳥取大学遺伝子医療学教授)

登録日: 2014-12-13

最終更新日: 2016-10-26

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2006年に発表された最初のinduced pluripotent stem cell(iPS細胞)においては,樹立に際して染色体に取り込まれるレトロウイルスベクターが用いられた。またc-Mycというがん遺伝子が用いられたため,iPS細胞のがん化という安全性の問題が危惧された。すなわち,レトロウイルスは細胞のゲノムDNAにランダムに組み込まれ,特定のがん抑制遺伝子を不活化したり,あるいはがん遺伝子を活性化したりする可能性があり,その結果,細胞が腫瘍化する危険性があった。
そこで,プラスミドと呼ばれる細胞の染色体に取り込まれることのない環状DNAをベクターとして用いる方法が開発された。また,c-Mycを導入した場合,これが細胞内で活性化し,腫瘍が引き起こされる可能性が指摘されてきた。そこで,c-Mycを代替するL-Mycを用いることで,腫瘍形成がほとんどなく,かつ作製効率や多能性も高いことが示され,iPS細胞のがん化リスクはかなり軽減され,これらの方法によるiPS細胞の安全性は動物実験で十分に確認されている。この取り組みは,京都大学iPS細胞研究所で精力的に進められ,iPS細胞の標準化が行われつつある。
最近の論文(文献1)では,初期化の程度ががん化に密接に関与しており,初期化が十分であればがん化は少ないが,不十分であればがん化が起こりやすいことが報告されている。がんの発生論として初期化をめぐるエピジェネティクスの関与が注目されている。iPS細胞により,エピジェネティクスへの関心がさらに高まっているが,発がんのメカニズムとしてもエピジェネティクスの研究の重要性が認識されている。

【文献】


1) Ohnishi K, et al:Cell. 2014;156(4):663-77.

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