1986年にBarkerらが「妊娠中の低栄養環境が成人病の素因をつくる」という成人病胎児期発症説を提唱した(文献1)。この考え方は,現在では胎児期から新生児期にかけて起こる環境と遺伝子の相互作用により生じた変化が,生涯にわたり存続し環境因子がさらに加わり健康や疾病に関与するという,DOHaD説として理解されている(文献2)。エピゲノムとは,DNA塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現の制御であり,発生,分化に必須の機序であるが,外的な環境の影響を受けやすい。近年,悪化した子宮内環境に適応するためのエピゲノムの変化が,DOHaDの分子機序として重要な役割を果たしている可能性が報告されている(文献3)。さらに,この変化は,ライフスタイルや薬物介入で修正可能であることが明らかとなっている(文献4)。
このDOHaD説は,世界で急増している高血圧症,脂質異常症,2型糖尿病や骨粗鬆症などのnon-communicable disease(文献5)の予防,治療を考える上で非常に重要である。若い女性の体格について,わが国ではやせが増加している一方で世界的には肥満が爆発的に増加していることから,DOHaDの視点に立った健康政策の必要性が指摘されている。今後,さらなるメカニズムの解明と,母体を含めた胎児期・新生児期の適切な栄養学的・薬物的な介入や管理についての研究成果が待たれる。
1) Barker DJ, et al:Lancet. 1986;1(8489):1077-81.
2) Gluckman P, et al:Science. 2004;305(5691):1733 -6.
3) Masuyama H, et al:Endocrinology. 2012;153(6): 2823-30.
4) Behrman JR, et al:Am J Clin Nutr. 2009;90(5): 1372-9.
5) Alleyne G, et al:Lancet. 2013;381(9866):566-74.