No.4748 (2015年04月25日発行) P.58
上村裕一 (鹿児島大学麻酔・蘇生学教授)
登録日: 2015-04-25
最終更新日: 2016-10-26
吸入麻酔は1846年にモートンがエーテルを用いて麻酔に成功して以来,1世紀半以上にわたって全身麻酔の主流である。吸入麻酔薬は,エーテル・クロロホルムからハロタン,エンフルランと進化し,現在は日本で開発されたセボフルランが世界中で最も使用されている。その理由は,副作用が少ないこと,気道刺激性が少ないため静脈路を確保していない小児を円滑に就眠させられること,覚醒が速いこと,などである。
さらに日本では,2011年から新しい吸入麻酔薬であるデスフルランが使用可能となった。欧米ではデスフルランは1990年代から使用されているが,セボフルランに比べて気道刺激性が強いため小児の麻酔開始時に使用できず,大人でも高濃度を使用すると頻脈になる可能性があること,使用する濃度が高く使用量が多くなること,などの理由から,日本での発売は遅れた。
しかし,日本では市販後その使用が急速に増加している。その理由は,麻酔終了後の覚醒の速さである。吸入麻酔薬の覚醒の速さを規定しているのは薬剤の血液への溶解度であるが,これが低いほど覚醒が速い。デスフルランは吸入麻酔薬の中でこの値が最も低い。この特性は覚醒遅延の可能性の高い高齢者・肥満者で特に有効性を発揮する。さらに,覚醒の質も良く,手術終了後の指示動作によく反応し,誤嚥の危険性も少ない。
今後さらに高齢者・肥満者が増えることから,吸入麻酔薬におけるデスフルランの割合は増加するものと考えられる。
▼ 武田純三, 編:デスフルランの使い方. 真興交易医書出版部, 2011.