医師法第17条に「医師でなければ,医業をなしてはならない」とあるが,なぜ,救急救命士は薬剤投与を行うことができるのであろうか?医行為には,医師しか行うことのできない絶対的医行為と,一定の医学的知識を持った者ができる相対的医行為がある。後者を医師以外の医療従事者に行わせるか否かは,“医療従事者の能力を勘案した”医師の判断による。
救急救命士に対するメディカルコントロール(MC)とは,医学的観点から救急救命士が行う救急救命処置の質を保証することである。具体的には,(1)指示体制,(2)教育体制,(3)救急救命処置の事後検証体制,が含まれる。組織としては,都道府県MC協議会と地域MC協議会がある。
救急救命士の行える処置は,これまで厚生労働省から出される告示や通知によって拡大されてきた。乳酸リンゲル液(1992年),気管内チューブ(2004年),エピネフリン(2005年),自己注射が可能なエピネフリン製剤(2009年),などである。ところが2012年には,(1)血糖測定と低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与,(2)重症喘息患者に対する吸入β2刺激薬の使用,(3)心肺機能停止前の静脈路確保と輸液の実施,の3行為について,全国で実証研究(厚生労働科学研究費)を行い,その結果をふまえて,(1)と(3)の導入が決定された(2014年1月)。これを受けて都道府県・地域MC協議会が協力して救急救命士の処置拡大追加講習を行っている。大けがを負った刑事が救急車に乗る前に点滴がついていた場面が,スクリーンから現実になる。