播種性血管内凝固症候群(DIC)は,基礎疾患に伴って生じる凝固異常によって起こる症候群である。DICの合併は死亡率を著しく上昇させるため,迅速な診断と治療が必要になる。
DICの診断には「厚生省DIC診断基準」(1988年),日本救急医学会による「急性期DIC診断基準」(2005年)がよく用いられる。しかし,DICの病態は基礎疾患によって異なると言われ,典型的には敗血症であれば線溶抑制型,急性前骨髄球性白血病(APL)などの血液疾患であれば線溶亢進型となる。そのため,一元的に診断基準を適応させることは難しい。
2014年より日本血栓止血学会では「厚生省DIC診断基準」に代わるDIC診断基準暫定案を公開し,その中で基礎疾患を「基本型」,「造血障害型」,「感染症型」にわけ,異なる診断基準を示している。この暫定案にはこれまでの項目のほか,アンチトロンビン活性や特殊な分子マーカーが含まれているが,多くの施設では日常的にこれらを測定できず,迅速な診断と治療開始の基準として適切ではないとの意見もあり,今後の検討が待たれる。
DICの治療では近年,わが国で開発されたリコンビナントヒトトロンボモジュリン(rhTM)が臨床現場で広く使用されている。rhTMはプロテインC,プラスミン,トロンビンの活性をモジュレート(調節)することによって,DICによる行き過ぎた凝固・線溶系を修正している。海外では販売されておらず世界的なエビデンスは不十分であるが,「日本版敗血症診療ガイドライン」に記載されている。現在,海外で第3相試験が実施されており,その結果が待たれるところである。