高齢社会を背景として,大動脈弁狭窄症(AS)に対する大動脈弁置換術(AVR)が増加している。その中でlow-EF(左心駆出率<50%)かつlow-flow(stroke volume index<35mL/m2)の重症AS(弁口面積<1cm2)はAVRのハイリスクで,AS全体の5~10%に認められる。low-EF, low-flow severe ASは保存的治療では3年生存率が50%以下と不良で,外科治療のリスクも高く早期死亡は6~33%と報告(文献1)されている。この手術成績は,左室収縮予備能(ドブタミン負荷エコー検査でLV stroke volumeが20%以上の増加で予備能ありと判断)の有無に左右され,予備能がない場合の手術死亡率は30%以上と高く,外科治療ハイリスク群である。
このような左室収縮予備能がない症例のAVRと保存的治療を比較した最近の研究では,AVRが長期生存の改善に関与することが報告され,ハイリスクであっても外科治療を考慮すべきであるとされている。現在のガイドラインでは,low-EF, low-flow severe ASに対するAVRはclassⅡa(左室収縮予備能あり),Ⅱb(左室収縮予備能なし)と記されている(文献2)。最近,大動脈弁疾患に対する低侵襲治療の進歩により人工心肺不要の経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)や,人工心肺時間を著しく短縮できるsutureless AVRが登場している。これらの低侵襲治療によりlow-EF, low-flow severe AS症例に対する治療成績の改善が期待され,その臨床応用と成績の分析に期待が寄せられている。
1) Monin JL, et al:Circulation. 2003;108(3):319-24.
2) Vahanian A, et al:Eur Heart J. 2012;33(19):2451-96.