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薬物濃度シミュレーター  【高度な薬物動態学の知識や経験がなくても麻酔管理が可能となったが,個体差を常に意識した調整が必要になる】

No.4789 (2016年02月06日発行) P.58

坪川恒久 (東京慈恵会医科大学麻酔科教授)

登録日: 2016-02-06

最終更新日: 2016-10-26

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麻酔科医は様々な薬物の薬理作用を利用して麻酔管理を行っている。麻酔管理をスムーズに行っていくためには,各薬剤の薬物動態に基づいて薬物濃度の推移を意識して投与することが必要になる。その意味では,麻酔科学とは臨床薬物動態学の実践にほかならない。
緻密な麻酔管理を行うためには経験と知識が必要であった。近年,電子麻酔記録には薬物濃度シミュレーターが搭載されるようになり,電子麻酔記録に投与した薬物量を入力しさえすれば,薬物濃度がグラフィカルに表示されるようになっている。このシステムを使用すると,高度な薬物動態学の知識や経験がなくても,薬物濃度推移を意識した麻酔管理が可能になる。実際,研修医に対する指示も,かつては「30分ごとに50μgずつ投与しなさい」という指示だったものが,現在では「血中濃度をだいたい1ng/mLにするようにして」という指示を出すように変化していて,研修医も彼らなりに考えて薬物を分割投与している。
ここには落とし穴もある。このような薬物濃度の計算は,あくまでも平均的なヒトのデータに基づいているため,大きな個体差を含有していることになる。この個体差を常に意識していないと,患者によっては過量投与あるいは過少投与になってしまう。そこで,バイタルサインなど薬力学的指標を参照した調整が必要になってくる。今後は薬力学と薬物動態学を融合したシミュレーター,吸入麻酔薬のシミュレーターなど,さらに安全な麻酔管理を行うために貢献できるシステムの開発が期待される。

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