No.4805 (2016年05月28日発行) P.56
河野 崇 (高知大学麻酔科学・集中治療医学講師)
横山正尚 (高知大学麻酔科学・集中治療医学教授)
登録日: 2016-05-28
最終更新日: 2016-10-26
最近の超音波装置をはじめとする医療機器の技術革新に伴い,周術期における末梢神経ブロックの技術も急速に進歩し,その質を保証できるようになってきた。末梢神経ブロックの適応が拡大されるにつれ,局所麻酔薬中毒への迅速かつ適切な対応も求められる。
局所麻酔薬中毒の症状は血液中の局所麻酔薬濃度の上昇に伴って出現し,初期にはめまい,口唇のしびれが生じるが,その後,中枢神経系症状(意識障害,痙攣,呼吸停止),心血管系合併症(循環虚脱,致死的不整脈)に至る。特に,長時間作用性局所麻酔薬による心毒性は,蘇生が困難であり,有効な治療法がないと考えられていた。脂肪乳剤の投与による局所麻酔薬中毒の治療効果が動物実験で示されていたが,近年,臨床症例においてもその有効性が確立されつつある。
現在,海外の局所麻酔薬中毒に対する治療ガイドラインでは脂肪乳剤による治療法(lipid rescue)が推奨されている。また,日本麻酔科学会の医薬品ガイドライン(Ⅶ 輸液・電解質液)にもその使用について記載されている。lipid rescueは,中枢神経系および心血管系症状の両者に有効とされる。lipid rescueでは,20%イントラリピッドR1.5mL/kgを1分以上かけてボーラス投与し,続いて0.25mL/kg/分で持続投与する。投与量の上限は10mL/kgとされる。lipid rescueの正確な作用機序は明らかになっていないが,脂肪乳剤が血漿中に分布し,脂溶性の高い局所麻酔薬と結合することによって有効血中濃度を下げる可能性が考えられている。頻度は不明であるが,肺障害や膵炎の副作用が報告されている。