神経膠腫発生に関わる遺伝子変化について,最近,染色体末端を伸長させる酵素であり,多くのがんで活性が高くなっていることが知られているテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)が重要な役割をしていることがわかり,神経膠腫の分子生物学的解明が進んでいる。
星細胞腫の発生にはIDH(isocitrate dehydrogenase),TP53,ATRX(alpha thalassemia/mental retardation syndrome X-linked)変異獲得が関わり,乏突起膠腫の発生にはIDH変異,1p19qの欠失とTERTプロモーターの変異,さらにCICの変異が絡んでいることが明らかになった(文献1)。一方,神経膠腫の中でも最も悪性度の高い(WHOグレードⅣ)膠芽腫においては,RB1,TP53,MAPK,PI3K経路の異常に加え,TERTプロモーター変異がいわゆるprimary glioblastoma(原発性膠芽腫)の発生に重要であることが報告されている(文献2)。同じ神経膠腫のカテゴリーでありながらも,それぞれの発生過程に違いがあることがわかってきたのである。
新しい2016年WHO中枢神経系腫瘍分類(文献3)では,分子生物学的要素を加味した分類法になっており,今後もこの領域での知見が集積してくるであろう。さらに,これらの知見が新しい治療法の開発につながっていくことが期待される。
1) Arita H, et al:Acta Neuropathol. 2013;126(2):267-76.
2) Arita H, et al:Acta Neuropathol. 2013;126(6):939-41.
3) Louis DN, et al:Acta Neuropathol. 2016;131(6):803-20.