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多発性囊胞腎に対するトルバプタン使用上の注意点 【生活リズムに合わせた処方内容の調整,肝障害や高Na血症への対策が必要】

No.4831 (2016年11月26日発行) P.58

西 慎一 (神戸大学医学部腎臓内科教授)

石村栄治 (大阪市立大学医学部附属病院腎臓内科准教授)

登録日: 2016-11-23

最終更新日: 2016-11-21

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  • 多発性囊胞腎の治療薬として,トルバプタンが保険適用となり,使用患者が増えていますが,多尿となるため使用上の注意も必要かと思います。また,どのような腎機能低下症例まで有効性があるのでしょうか。使用上の注意点をお伺いしたいと思います。
    大阪市立大学・石村栄治先生のご回答をお願いします。

    【質問者】

    西 慎一 神戸大学医学部腎臓内科教授


    【回答】

    バソプレシンV2受容体拮抗薬のトルバプタンは当初,水利尿をもたらす利尿薬として開発され,心不全,肝性浮腫に対して有用な利尿薬として臨床使用されてきました。トルバプタンは,ループ利尿薬(フロセミドなど)と異なり,①電解質異常をきたさない(低K血症や,低Na血症をもたらさない),②血圧の低下をもたらさない,③RA系活性を引き起こさない,④腎機能低下をきたさない,という有用な特徴を持つ水利尿薬です。現在,難治性の糖尿病性腎症の浮腫コントロール,透析導入遅延などにも期待されている利尿薬です1)

    (1)多発性囊胞腎への保険適用
    2014年3月,このトルバプタンが「腎容積が既に増大しており,かつ腎容積の増大速度が速い常染色体優性多発性囊胞腎の進行抑制」の効能・効果で,世界に先駆けてわが国で保険適用となりました。

    トルバプタンなどのバソプレシンV2受容体拮抗薬がラットの実験で囊胞進展を抑制すること2),in vitroで行われた多発性囊胞腎患者腎由来の培養細胞の実験で,cAMPの産生を有意に抑制し,細胞増殖を有意に抑制する3)ことが,2000年代初頭に数々報告されていました。その結果に基づき,2008年より,全世界の15カ国1445例の多発性囊胞腎患者を対象に,二重盲検試験が実施されました(TEMPO試験,わが国より筆者らの施設の症例など177例が登録)。その結果,トルバプタン投与群ではプラセボ群より総腎容積の増大が有意に抑制され,また,「1/クレアチニン」で測定された腎機能低下が有意に抑制されたことが2012年の米国腎臓学会にて報告され,大きな反響を呼び(筆者もその会場にいました。感銘を受けたものです),同日,その結果が論文発表されました4)。その結果に基づき,わが国では2014年3月に保険適用とされ,現在,欧州各国,カナダなどでトルバプタンは多発性囊胞腎治療薬として承認されています。

    TEMPO試験は,推算クレアチニンクリアランス(Cockcroft-Gault式)が60mL/分以上,総腎容積が750mL以上の多発性囊胞腎患者を対象として行われてエビデンスを打ち立てています。わが国でも,総腎容積が750mL以上,糸球体濾過率が15mL/分以上,年間総腎容積が5%以上増大の患者に保険適用が認められています(実際には,年間増加率は3~6カ月で測定されます。腎容積は,楕円球体の体積測定1/6・πabcで計測されます)。

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