【質問者】
紙谷寛之 旭川医科大学心臓大血管外科学分野教授
右小開胸僧帽弁手術は,術後の早期回復,早期社会復帰を可能にし,美容的満足度も高い手術であり,急速に普及が進んでいます。また,右小開胸手術特有の合併症は情報共有や対策の結果,発生頻度や重篤度も下がっています。合併症の中で,再膨張性肺水腫はいまだ発生機序が解明されていないことと,稀ではありますが,いざ発生すると重症に陥ることから,関心度の高いもののひとつです。
古典的には,多量かつ長期に貯留した胸水の急速ドレナージにより惹起されますが,その頻度は2~6%と,報告によって差があります1)。右小開胸僧帽弁手術後に限定するとさらに稀で,Tutschkaらの術後胸部X線写真読影に基づいた376例の解析2)では,右小開胸心臓手術後に25%で片側性透過性低下を認めました。この群では術後呼吸器管理時間が有意に長く,22%で48時間以上の呼吸器管理を要します。つまり呼吸器管理が長引くような,臨床的に問題となる重症例の発生率は,手術例全体の5.5%と計算されます。一方,透過性低下のない群では,呼吸期管理延長は1%にしか認めず,死亡例もないことから,再膨張性肺水腫は,右小開胸僧帽弁手術の術後経過に大きなインパクトを持つことが明らかです。
再膨張性肺水腫の発生リスク因子は,①慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD),②人工心肺作動時間,③右室収縮期血圧40mmHg以上の右室機能不全,の3つとされています。わが国からはIrisawaらが,再膨張性肺水腫の発生率を2.1%と報告し3),発生リスク因子は,①術前にステロイドや免疫抑制薬を服用していた患者,②長い大動脈遮断時間,としています。
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