(質問者:千葉県 M)
(1)法的根拠の必要性
介護老人保健施設の入所者にも行動の自由がありますから,この自由を制限する身体拘束には法的根拠が必要です。「身体拘束」をするには法的根拠が必要ということであって,「拘束禁止」に法的根拠が必要なのではありません。
たとえば,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第36条第1項は,「精神病院の管理者は,入院中の者につき,その医療又は保護に欠くことのできない限度において,その行動について必要な制限を行うことができる」と規定していますが,この規定は,入院中の患者に行動の自由があることを前提に,一定の条件のもとに例外的に行動制限が「できる」ことを規定したものです。
介護老人保健施設については,このような規定はありません。しかし,介護保険法に基づき都道府県(指定都市又は中核市)が条例で定めた運営基準(同法第97条第3項)において,当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き,身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為を行ってはならない旨が定められています。そこで,厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」が取りまとめた『身体拘束ゼロへの手引き』(2001年3月)等では,この規定を反対に解釈することによって,「緊急やむを得ない場合」という例外要件があるときは,身体拘束が可能になるという解釈が採られています1)2)。
「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」との関係では,身体拘束は原則としてすべて「養介護施設従事者等による高齢者虐待」に該当し,例外要件に当たる場合に限って,高齢者虐待に該当しないと解されています3)。
残り1,682文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する