熱中症に関する診断名には,症状を中心とした欧米由来の診断名と対処法別に3段階に分類した本邦独自の診断名がある
対処法別の重症度分類は,Ⅰ度(軽症:現場で対応),Ⅱ度(中等症:医療機関へ搬送),Ⅲ度(重症:入院適応)に分類される
熱中症の病態は高体温による臓器の障害と,脱水・心機能低下・体表血管拡張による臓器虚血の2つがその本態である。特に中枢神経,肝・腎,血液凝固系が障害されやすい
高齢者ほど重症化しやすく,死亡率も高い。特に屋内で過ごす高齢者が熱波により数日かかって熱中症に陥るケースへの対応が重要になっている
早期診断と早期治療に反応する病気なので,予防を含め,周囲の見守りや,盛夏における屋内での生活環境の整備が特に重要である
欧米の診断名をそのまま邦訳した熱射病,熱疲労,熱失神,熱痙攣(聞き慣れない熱浮腫,最近あまり聞かれなくなった日射病)と称されてきた「暑熱障害(heat illness)」は,病態や症状からの診断名であり,その鑑別と重症度の違い,病院搬送の適応など,発生場所だけでなく医療現場でも理解されにくい点が問題であった。そこで,安岡らの分類1)をもとに,日本神経救急医学会および日本救急医学会で「暑熱障害」を熱中症と統一した上で,“早期の認識と応急処置,正確な重症度診断と適切な治療,死亡・後遺障害の低減”を基準として2000年以降,現場で対処可能なⅠ度(軽症),医療機関への搬送を必要とするⅡ度(中等症),入院加療を要するⅢ度(重症)の3段階に分類2)し,行政,マスコミ,医療系学会を含めその普及を図ってきた。
日本救急医学会による最新の分類(表1)2)では,熱中症を重症度順にⅠ~Ⅲ度の一軸で表現している。Ⅰ度は,現場で対処可能な症例とし,筋肉の症状と脱水に伴う症状に限定される。一瞬の失神はあっても意識障害は認められない。一般市民がⅡ度との鑑別を判断する必要がある。Ⅱ度は,医療機関の受診を必要とする病態で,高体温と虚血により生体側の恒常性が崩れはじめた病態である。頭痛,嘔気・嘔吐のため自力での水分摂取が不可能となり,倦怠感・虚脱感を伴うこともある。わかりやすいのが前述の典型的な症状と意識障害の発現(JCS≦1)である。Ⅲ度との鑑別はクリニックや一次救急医療機関の医療者が判断する必要がある。Ⅲ度は,明らかな臓器障害が認められ入院加療(場合によっては集中治療)が必要な病態である。ヨーロッパ蘇生協議会(European Resuscitation Council:ERC)のガイドライン20103)に示されている軽症の熱ストレス(熱浮腫,熱失神,熱痙攣を含む)と中等症の熱疲労,最重症の熱射病を参考として表の右端に添付する(表1)。
体温を用いた重症度分類は,本質的に深部体温が用いられるべきであるが,現場で正確な体温測定は容易ではなく,日本救急医学会は採用していない。もちろん,体表温であっても,正確に測定された体温が高ければ重症であることに間違いはない。
参考となるマニュアルやガイドラインとして,環境省の「熱中症環境保健マニュアル(2014年3月改訂版)」4),日本生気象学会の「日常生活における熱中症予防指針ver.3確定版」5)などがそれぞれのHPから無料でダウンロード可能である。
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