患者の疾患背景,治療環境に応じた抗菌薬選択を心がける
腎機能低下に対する投薬治療を検討する
使用薬剤による副作用の発現にも十分注意する
経口抗菌薬は,投与回数が少なく薬物の誤嚥リスクの低いものが良い
炎症反応があるときは感染症が疑われるが,一番重要なことは,どんな感染症であるかを診断することである。診断が妥当であれば,抗菌薬の選択はおのずと決まってくるので,診断力の向上が抗菌薬治療の成功率を上げる鍵である。抗菌薬選択のテクニックを論じる以前に,診断ができなければ,すべての議論は空論と化す。議論の上で肺炎と診断できればおおよその原因菌が推定できるので,状況を把握しながら最適の抗菌薬を選択する。
高齢者において最も配慮すべきは,腎機能の低下である。腎臓に基礎疾患がある患者ではもちろんのこと,加齢による生理的な腎機能の低下が,ほぼ全例に生じていることに留意する。通常,腎機能の判断基準に用いる血清クレアチニン値が見かけ上は正常範囲内でも,腎機能は低下している場合が多い1)〜3)。特に,血清クレアチニン値は,全身筋肉量が低下した高齢者では,むしろ低下している症例もあり,血清クレアチニン値が正常範囲内にあっても,それが機能正常を保証しているわけではない。
腎排泄型の抗菌薬を投与する前には,Cockcroft-Gaultの式や推算糸球体濾過値(estimated glomerular filtration rate:eGFR)の推定式を用いて腎機能を推定し,投与量を調節する。注射用抗菌薬の多くは腎排泄型であり,腎機能による調整(投与回数の減少,あるいは投与量の減量)が必要である。これは,未変化体として排泄される薬物の体内への蓄積を生じ,肝および腎血流量が低下した高齢者では,薬物代謝が低下し,作用の増強と副作用の悪化が起こりうるからである4)。しかし,薬剤の特性があるので,〔薬物動態(pharmacokinetics:PK)〕-〔薬力学(pharmacodynamics:PD)〕を考慮して,最大血中濃度を確保し,最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)を超える治療域濃度を維持することも大切である。つまり,やみくもに減量投与することは好ましくない。
残り4,722文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する