No.4764 (2015年08月15日発行) P.55
松永 明 (鹿児島大学附属病院手術部准教授)
上村裕一 (鹿児島大学麻酔・蘇生学教授)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-02-17
心機能や腎機能に問題のない患者では体液バランスの許容範囲が広いために,過去の経験やマニュアルから大まかに術中輸液管理が行われることが多く,わが国では比較的多量の晶質液投与(非制限的輸液戦略:liberal fluid strategy)を行うことが一般的であった。その根拠は,1960年代にShiresらが提唱したサードスペースの概念に基づいている。
手術侵襲により細胞外液が隔離された,水分の出入りのないサードスペースに移行するため,機能的細胞外液量は減少する。そのため,術中にサードスペースに逃げる水分補充のための晶質液大量投与は必須で,術後の浮腫形成は不可避であると考えられ,呼吸不全をきたさない限り過剰輸液に伴う浮腫が問題とされることは少なかった。
しかし,この10年間に,隔離された領域であるサードスペースは存在せず1),逆に晶質液投与を制限し,膠質液を投与する輸液管理が予後を改善するという報告が相次いだ。制限的輸液戦略(restrictive fluid strategy),輸液最適化(fluid optimization),目標指向型輸液療法(goal-directed fluid therapy)という新しい輸液管理法である。
それぞれ戦略は異なるが,めざすところは同一である。サードスペースの存在を否定し,晶質液投与を制限し,膠質液を適宜投与することで,血管内容量の適正化を図り,組織灌流を維持しようという概念である。近年,臨床でよく用いられている低侵襲血行動態モニターを利用した輸液反応性の評価が,その戦略に組み込まれる場合もある。
【文献】
1) Brandstrup B, et al:Surgery. 2006;139(3):419-32.
【解説】
松永 明 鹿児島大学附属病院手術部准教授
上村裕一 鹿児島大学麻酔・蘇生学教授