検尿などの基本検査と合併症評価は不可欠で,治療可能な病態への適切な対応が夜間頻尿改善につながる
多飲多尿による夜間頻尿は高頻度で,排尿日誌に基づく飲水指導が有効かつ唯一の治療法である
尿意切迫時の転倒の転帰はしばしば悲惨であり,その予防・注意を第一に考慮する
夜間頻尿の主因は加齢で根治は困難である。一方で多くの薬物療法・指導法は,それなりの効果が享受できる
“下部尿路症状の原因は前立腺”という認識はいまだに一般に広く浸透している。そのため臨床現場では「手術して下部尿路症状を完治したい」と,専門医のもとを訪れる患者が多い。かつて高齢者比率が低かった時代の前立腺肥大症手術は,しばしば下部尿路症状根治術でもあった。しかし近年の下部尿路症状1)は,女性も含む高齢者に多く“加齢と合併疾患(全身疾患)”が主因となっている。
下部尿路症状は多岐にわたる病態に起因する。よって,治療法の選択には原因疾患を特定することが第一であり,検尿をはじめとする基本検査と合併症評価は不可欠である。これらの中で加療可能な病態があれば,まず治療を行うことが肝要であり,その効果は良好である。
高齢者では加齢とそれに伴う合併疾患の一部分症状としての下部尿路症状・夜間頻尿が高頻度である。正常排尿遂行は全身機能に依存するところが多く,膀胱・尿道機能だけでなく,認知・睡眠覚醒2)・視力を含むあらゆる中枢神経機能,巧みな上・下肢機能とそれらの的確な協調が不可欠である。
加齢と合併疾患は,全身機能を不可逆的に悪化させる。高齢者の下部尿路症状の直接・間接原因になる疾患は,前立腺疾患や尿路感染症だけでなく,高血圧,動脈硬化,糖尿病,心不全,呼吸障害3)〔睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)など〕にまで及び,夜間頻尿では睡眠障害2)も関連し,それらが病態を複雑化させている。このため,高齢者の下部尿路症状の治療には,合併疾患治療が不可欠となるが,多くの場合これらは各専門領域で可能な限り治療・管理されているにもかかわらず,下部尿路症状を発症しているのが現状である。結局,高齢者下部尿路症状の本態は加齢であり“完治”は望めず,治療の効果も限定的であると悲観的にならざるをえない。
一方で楽観的要因もある。それは“どの治療法も多少は有効”なことである。現実に数多い行動療法や薬物療法のどれを採用しても無効なものはほとんどなく,本来無効なはずのプラセボですらその効果は絶大である。そのため“何かを行うこと”で医療者として患者の期待に少なからず応えることができる。本特集で既述のリスク因子と病態,排尿日誌の有用性を理解した上での診療アルゴリズムを図1 1)に示し,補足を以下に概説する。
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