No.4847 (2017年03月18日発行) P.20
長尾和宏 (長尾クリニック)
登録日: 2017-03-17
脚本家の橋田壽賀子氏が『文藝春秋』2016年12月号に「私は安楽死で逝きたい」という手記を書かれた。「もし認知症になったら、スイスの安楽死団体ディグニタスに行って安楽死したい」という文章は、多くの国民の共感を呼んだ。同年最も多くの読者が支持した記事ということで、第78回文藝春秋読者賞を受賞された。ちなみに『週刊文春』の調査(2015年)によると、なんと7割の日本人が安楽死に賛成だという。橋田氏は、『週刊新潮』2017年1月19日号にも同様の趣旨の文章を寄せていた。さらに、作家の筒井康隆氏は、『SAPIO』2017年2月号で、「日本でも早く安楽死法を通してもらうしかない」という文章を書かれて多くの支持を得ている。このように、昨年末に橋田氏が火をつけた安楽死議論がにわかに盛り上がっている。
私も2012年に、ディグニタス(DIGNITAS)を訪問する機会があった。しかし、日本はリビングウイル(LW)さえ法的に担保されていない国であることは世界的にも有名で、ディグニタスでは日本人は門前払いである。実は、私のところにも知らない日本人から、安楽死の相談やディグニタスに紹介状を書いてほしいという趣旨の依頼がたくさん来るが、そう説明している。いくら有名人でも、日本国籍である限り受け付けてくれない。日本でも、「認知症は何もできない人ではない」「認知症の人も普通に生活できる」という啓発が始まっているが、逆行している。
また、筒井氏の文章をよく読むと、「延命治療を中止して緩和ケアを行ってほしい」と書いてある。これは安楽死ではなく、尊厳死そのものである。完全に尊厳死と安楽死を混同しているようだ。
尊厳死と安楽死については、『文藝春秋』2017年3月号に掲載された「安楽死は是か非か 大アンケート 著名人60人の賛否を公開する」という記事でも、意味を混同・誤解している人が大半であった。したがって、「市民の7割が安楽死に賛成」というアンケート結果も、こうした誤解を割り引いて解釈する必要がある。ただ、多くの国民感情としては、言葉の定義よりも「管だらけで苦しい最期は嫌だ」「モルヒネでたとえ寿命が少しくらい縮まっても構わない」のであろう。
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