SPRINT研究の対象となった後期高齢者において,積極的収縮期血圧(SBP)降圧治療(院内自己自動測定SBP 120mmHg未満)は通常治療(院内自己自動測定SBP 140mmHg未満)に比べ,心不全の発症や総死亡などの予防に有用であった
SPRINT研究における積極的SBP降圧治療の有用性は,後期高齢者に認められる活動度低下症例,脆弱症例でも確認された
SPRINT研究における積極治療群での降圧薬処方内容は,カルシウム拮抗薬よりレニン─アンジオテンシン系阻害薬,利尿薬の処方頻度が高い
SPRINT研究における院内自己自動測定は,従来の診察室測定とは異なる血圧測定法であることに注意が必要である
SPRINT研究結果は,2015年に「American Heart Association」の年次集会で発表され,直ちに「New England Journal of Medicine」に結果が掲載された1)。2016年9月に韓国で開催された「第26回国際高血圧学会(ISH 2016)」でも,SPRINT研究に関連したsessionがいくつも設けられ,その注目度の高さがうかがえる。
SPRINT研究の研究デザインと研究対象に関しては,J-CLEARのホームページ2)に記載されているため,本稿においては,後期高齢者のサブ解析に関する解説を追記する3)。
75歳以上で糖尿病以外の心血管疾患発症リスクを有する高血圧症例において,収縮期血圧(systolic blood pressure:SBP)の降圧目標値を120mmHg未満とする積極治療群と140mmHg未満とする通常治療群で比べ,心血管疾患発症の減少を検証した多施設共同前向き研究である。
研究対象は以下の基準を満たす症例である。
(1)選択基準
①年齢50歳以上(SPRINT研究の後期高齢者サブ解析では75歳以上)
②SBP 130~180mmHg(ただし服用降圧薬数で選択基準が異なる)
(2)危険因子
・ 脳卒中以外の心血管疾患:心筋梗塞,冠動脈バイパス術施行,冠動脈形成術施行,頸動脈内膜剝離・ステント施行,末梢動脈疾患,運動負荷試験・冠動脈疾患画像検査陽性,画像診断で冠動脈・頸動脈・下肢動脈に50%以上の狭窄,径5cm以上の腹部動脈瘤
・ 潜在性心血管疾患:冠動脈CT石灰化スコア400以上,足関節上腕血圧比(ABI)0.9以下,心電図左室肥大
・ 推定糸球体濾過率(eGFR)20~59mL/分/1.73m2
・ Framingham risk scoreで10年以内の心血管疾患発症リスク15%以上
・ 年齢75歳以上
(3)除外基準
①脳卒中の既往
②蛋白尿(1g/日以上),eGFR 20mL/分/1.73m2未満
③糖尿病(空腹時血糖126mg/dL以上,HbA1c 6.5%以上,糖負荷試験異常)
④症状を有する心不全,左室駆出率35%未満の心機能低下例
(4)SPRINT研究後期高齢者サブ解析選択基準へのコメント
SPRINT主研究では後期高齢者(75歳以上)はリスクとして取り扱われているので,SPRINT研究後期高齢者サブ解析では心血管疾患の既往のない症例も含まれていることに注意が必要である。また,SPRINT研究後期高齢者サブ解析では44%がeGFR 60mL/分/1.73m2未満であった。一般的な日本人高齢者における慢性腎臓病の頻度は30~35%程度とされているので,腎機能障害合併の頻度がやや高い集団であると言える。
SPRINT研究後期高齢者サブ解析での注意事項は,3756例中1120例がランダム化する前に除外されていることである。その理由は,多数の薬剤服用,研究参加の了承が得られないなど高齢者特有の問題が多い。ゆえに,SPRINT研究後期高齢者サブ解析の対象者は,後期高齢者でも比較的自立した症例が多いと考えられる。
SPRINT主研究およびSPRINT研究後期高齢者サブ解析は,ともに過度のSBP低下による心血管疾患(特に冠動脈疾患)発症の増加(J-curve現象)を否定する結果である。J-curve現象は,特に過度の拡張期血圧(diastolic blood pressure:DBP)低下により冠灌流障害をきたすことが一因と考えられている。
糖尿病高血圧症例を対象としたACCORD-BP研究は,J-curve現象の存在に肯定的な結果を示した。同研究の対象例の血圧は平均139/76mmHgであったが4),一方で今回のSPRINT研究後期高齢者サブ解析では平均142/72mmHgであり,ACCORD-BP研究よりDBPは低く脈圧も大きい。両研究の差異は糖尿病合併の有無であることから,今後,糖尿病例における積極的降圧治療の有用性の再確認が重要と考えられる。
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