生殖可能年齢カップルの15%は不妊であり,その48%に男性因子が認められる
原因の80%以上は造精機能障害であり,ついで性機能障害,閉塞性精路障害が多い
男性不妊の治療において,手術療法は高い有効率を呈している
婦人科医や患者の間では,いまだ男性不妊診療への理解・認知が深まっておらず,さらなる努力が必要である
2015年9月,安倍政権は経済成長の推進力として「新三本の矢」を提唱した。そのひとつに「夢を紡ぐ子育て支援」という少子化対策があり,現在1.4程度である合計特殊出生率を1.8まで回復させることを目標としている。そのための様々な政策が打ち出されてきたが,不妊治療への注力もそのひとつである。
従来,生殖可能年齢カップルの15%は不妊であり1),その48%に男性因子が存在する2)と言われる中で,男性因子の研究,治療法の開発は重要な課題である。しかし,わが国の不妊治療は婦人科主導であり,男性側に原因があった場合でも,専門的に診察できる施設は非常に少ない。日本生殖医学会が認定している「泌尿器科領域生殖医療専門医」は,2016年4月現在48人のみである。しかも,大都市圏への医師の偏在による地域格差が生じており,十分な診療体制が取れているとは言えない。また,男性不妊症の情報についても,「不妊の原因の約半数は男性側にある」という情報以上の理解が,患者,婦人科医,生殖医療専門医以外の泌尿器科医の間で深まっているとは言いがたい。
2015年度厚生労働省調査によると,1年間に泌尿器科の生殖医療専門医を訪れた男性不妊症新患数は7268人であった3)。本調査は1997年度にも行われており,当時の患者数は1504人であった4)(図1)。また,同2015年度の調査で泌尿器科の生殖医療専門医は,自施設以外でも生殖補助医療技術(assisted reproductive technology:ART)認定施設(婦人科)で男性不妊外来を開設するなどして患者を診察していることが明らかになった。33人の回答者が1カ月で診察した人数は,合わせて約1500人にも及ぶとされる(表1)。前回調査時に比べると患者数は非常に増加しているが,その原因としては,結婚年齢が上がったことで加齢による精子の質の低下が進んでいることや,カップルの男性不妊症に関する知識が高まっていることなどが考えられる。
残り2,023文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する