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(1) 循環器病学[特集:臨床医学の展望]

No.4740 (2015年02月28日発行) P.18

筒井裕之 (北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学教授)

登録日: 2016-09-01

最終更新日: 2017-04-10

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  • ■循環器病学の現況と課題

    循環器疾患は高血圧,糖尿病,脂質異常症などのリスクファクターが動脈硬化を引き起こし,冠動脈疾患を発症し不整脈や心不全から最終的には死に至る一連の連鎖としてとらえられる。
    冠動脈疾患診療で注目されるのは,冠動脈CTの進歩・普及による診断手順の変化と薬剤溶出性ステントの普及による治療戦略の進歩である。人口の高齢化,生活習慣病の増加,急性心筋梗塞に対する急性期治療の普及と治療成績の向上などによって,心不全が増加している。基礎研究により心不全の分子機序が解明され,大規模臨床試験により標準的治療が確立してきたが,予後は依然として不良であり,新規治療が開発中である。
    補助人工心臓は,体外設置型から植込み型へと大きく進歩し,今後心移植までのブリッジばかりではなくdestination therapyが増加すると予測される。さらに,iPS細胞を用いた心筋再生にも大きな期待が寄せられている。不整脈治療においてはカテーテルアブレーションの普及が著しい。心房細動では血栓塞栓症予防が重要であるが,ワルファリンに加えて新規経口抗凝固薬が使用可能となった。弁膜疾患は基本的に外科的手術の対象であるが,カテーテルによる大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁植込み術が開始された。
    今日の循環器病学は,基礎研究に基づく病態の解明とエビデンスに基づく治療の確立を車の両輪として発展してきたが,今後ともさらなる進展が期待される。

    TOPIC 1

    心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)

    日本循環器学会,日本心臓病学会,日本心電図学会,日本不整脈学会の4学会から,「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」が公表された1)。「弁膜症性」の定義が改められ,「人工弁置換(機械弁と生体弁)」と「リウマチ性僧帽弁膜症」の2つを「弁膜症性」とし,「僧帽弁修復術後」は「非弁膜症性」として扱うこととなった。さらに,「孤立性心房細動」は「臨床上有意な器質的心疾患を認めない心房細動」と表現され,器質的心疾患は,具体的には肥大心,不全心,虚血心を指すと明記された。
    心房細動の治療は,心拍数調節(レートコントロール),洞調律化・再発予防(リズムコントロール),および抗凝固療法からなる。

    (1)心拍数調節(レートコントロール)と洞調律化・再発予防(リズムコントロール)

    心拍数調節に関しては,これまで経験的な目標心拍数が設定されていたが,それほど厳格な心拍数コントロールでなくても予後に大きな差のないことが明らかになってきた。
    洞調律化・再発予防については,新規抗不整脈薬の上市はなく,薬物療法に大きな変化はない。また,心房細動の誘因となる高血圧や虚血への予防的治療(アップストリーム治療)の有効性は,欧米で行われたGruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico-Atrial Fibrillation(GISSI-AF)試験やわが国のJapanese Rhythm Management TrialⅡ for Atrial Fibrillation(J-RHYTHMⅡ)試験などの前向き比較試験で,共に否定的となっている。洞調律化・再発予防としてのカテーテルアブレーションは広く行われるようになり,薬物治療よりも優れた成績が集積されてきており,今や欠かすことのできない治療となっている。日本循環器学会から「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」(2012年)も公表されている。

    (2)心原性塞栓症リスクの層別化と新規経口抗凝固薬

    日本における前向き観察研究(J-RHYTHMレジストリ)にて,日本でも欧米と同様,ワルファリン非服用例にてCHADS2スコアが高くなるほど血栓塞栓症発生率の上昇が確認された2)。一方,海外では,女性が血栓塞栓症のリスク因子であることが示されているが,日本では性差を認めなかった。
    欧米では,心原性塞栓症リスクの層別化にCHA2DS2-VAScスコアが導入されているが3),日本では従来通りCHADS2スコアを使用している。CHA2DS2-VAScスコアは,特に低リスク患者の評価に優れているが,評価方法が煩雑になることや,新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulants:NOAC)の臨床試験がCHADS2スコアを採用しているためである。ただし,CHADS2スコア0点の際に,心筋症,年齢が65歳以上74歳以下,血管疾患(心筋梗塞の既往,大動脈プラーク,末梢動脈疾患など)の3つを「その他のリスク」として追加する形を取り,CHADS2スコア0点でもこれらに1つでも該当する場合は,抗凝固療法を「考慮可」としている。
    出血リスクの層別化には,欧州心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)ガイドラインに採用されたHAS-BLEDスコアが,わが国のガイドラインでも採用され,スコア0点を低リスク(年間の重大な出血発症リスクが1%),1~2点を中等度リスク(同2~4%),3点以上を高リスク(同4~6%)と評価することとしている3)
    ワルファリンに加えてNOACまたは非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(non-vitamin K antagonist oral anticoagulants:NOAC)として直接トロンビン阻害薬ダビガトランや第Xa因子(FXa)阻害薬リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンが使用されるようになり,心房細動の抗凝固療法は大きく変貌した。CHADS2スコアが2点以上の場合には,ダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン,ワルファリンがいずれも推奨となった。新規抗凝固薬はいずれもワルファリンと同等かより優れた効果を示し,かつ頭蓋内出血が少ないことから,同等レベルの適応の場合には,NOACがワルファリンよりも望ましいとしている。またCHADS2スコアが1点の場合に,ダビガトランとアピキサバンの2つが推奨で,リバーロキサバンとエドキサバンが考慮可とされた。これは,ダビガトランとアピキサバンは大規模臨床試験の対象患者にCHADS2スコア1点が含まれていたのに対し,リバーロキサバンとエドキサバンでは含まれていなかったためである。
    ワルファリンによる抗凝固療法については,これまでも70歳以上ではINR 1.6~2.6と,欧米より0.5ほど低い数値が至適強度とされてきたが,J-RHYTHMレジストリにおいて,その妥当性が確認された2)

    【文献】
    1) 日本循環器学会, 日本心臓病学会, 日本心電図学会, 日本不整脈学会:心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版), 2013.
    2) Inoue H, et al:Circ J. 2013;77(9):2264–70.
    3) Camm AJ, et al:Eur Heart J. 2012;33(21): 2719-47.

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