ハームリダクションの観点から本誌に「電子タバコに日本はどう対応するべきか」(2015年4月11日号)を寄稿した。本稿では、それ以降の電子タバコの規制を巡る世界の動きを概観し、論点を整理して、日本のとるべき対応について再度論じる。
2015年の電子タバコの市場規模は世界で約100億米ドル、このうち約56%が米国、約12%が英国と推定されている1)。両国では、電子タバコは一般消費財とされてきたが、2016年になってタバコ製品として規制されることとなった。
英国は、EU離脱までは、2014年に改正されたEU Tobacco Products Directiveのもとで2016年5月から電子タバコは医薬品として認可を受けるもの以外はタバコ関連製品とされ、広告の規制とともに、電子タバコのタンク容量は2ml以下、詰め替え用e溶液の容量は10ml以下、e溶液のニコチン濃度は20mg/ml以下に制限などの規制を受けることとなった。
この動きに対してPublic Health Englandは、2015年8月“Electronic cigarettes:an evidence update”を公表して、非喫煙の青少年による電子タバコの使用は稀であることを示すとともに、Nuttらの研究2)を引用して電子タバコの害は紙巻タバコより95%少ないとした。また、Royal College of Physiciansは2016年4月“Nicotine without smoke:Tobacco harm reduction”を公表して、電子タバコの利害は紙巻タバコとの比較において論ずべきだとし、紙巻タバコの代替として電子タバコの使用を普及することが公衆の利益の観点から重要であると結論した。
米国では、電子タバコは医薬品であるとするFDAの主張を退けた2010年の電子タバコ輸入差し止め訴訟への連邦高裁の判決を受けて、FDAが2016年5月20日タバコ製品に該当すると判断する規則(deeming rule)を公示し、2016年8月8日から施行された。
この規則により電子タバコはタバコ製品とみなされ、新製品はもちろん2007年2月15日~2016年8月8日の期間に販売されていた製品も、非常に煩雑で高額なタバコ製品申請と有害成分の報告をしてFDAの審査を受けなければならなくなった。2007年2月15日以前から販売されているものは適用除外とされたが、ほとんどすべての電子タバコはこの時点で存在しなかったので、この申請と報告は必須となる。一方、紙巻タバコの多くは既に販売されていたので、このような手続きは適用除外される。その結果、多くの電子タバコが実質上禁止となる厳しい規制となった。この規制のままでは、電子タバコの入手は今後困難となり、多くの電子タバコ使用の元喫煙者が再喫煙するという結果をもたらすと思われる。
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