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(1)シックハウス症候群,化学物質とアレルギー [特集:シックハウス症候群への対策と予防]

No.4742 (2015年03月14日発行) P.18

高野裕久 (京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻環境衛生学講座教授 )

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-14

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  • シックハウス症候群は,アレルギー疾患の発症や既存のアレルギー疾患の再発,悪化として表出する場合がある

    アレルギー疾患の増加,悪化に関わる環境要因を考える際,アレルゲンのみならず,環境化学物質をはじめとする環境汚染物質の存在に配慮する必要がある

    少なくとも実験的には,ある種の環境汚染物質・化学物質は,明らかにアレルギー疾患を悪化させ,そのメカニズムも解明されつつある

    アレルギー疾患の制圧をめざすためには,医学的アプローチのみならず,環境科学的アプローチも重要と考えられる

    1. シックハウス症候群とは

    厚生労働科学研究(健康安全・危機管理対策総合研究事業)の「シックハウス症候群診療マニュアル」によると,シックハウス症候群は4型に分類される。1型は化学物質による中毒症状,2型は新・改築などで化学物質曝露の可能性が大きいもの(狭義のシックハウス症候群),3型は化学物質曝露が考えにくく,心理・精神的関与が考えられるもの,4型はアレルギー疾患や他の疾患によるものである。また,「シックハウス症候群の概念は(中略)広範囲の病態を含むため,中毒,アレルギーなどの疾患以外で,微量の化学物質により発生する病態未解明の状態を,狭義のシックハウス症候群として扱うことを,2007年に厚生労働科学研究費補助金による合同研究班(中略)で合意した。化学物質により発生する狭義のシックハウス症候群は,『建物内環境における,化学物質の関与が想定される皮膚・粘膜症状や,頭痛・倦怠感等の多彩な非特異的症状群で,明らかな中毒・アレルギーなど,病因や病態が医学的に解明されているものを除く』」との記載もある。
    一方,化学物質,特に建物内に存在する化学物質の曝露による,既存のアレルギー疾患の再発,再燃や悪化は,臨床的にしばしば経験されてきた。本稿では,シックハウス症候群,化学物質とアレルギーの関連について,筆者の知見を交えつつ概説する。

    2. アレルギーの増加と環境要因

    アレルギー疾患の増加,悪化に関連する要因として,居住環境,食環境,衛生環境などの環境の変化が挙げられている。たとえば,居住環境の密閉化,空調の使用による湿度・室温の定常化(ダニアレルゲン増加の可能性),食生活の欧米化や多様化,寄生虫感染や細菌感染の減少などの重要性を指摘する研究者もいる。
    一方,これらの環境の変化に共通してみられるのが,化学物質の増加である。居住環境に関しては,木材の防腐剤,防虫剤,建材の接着剤や塗料,家電製品に含まれる防燃剤や可塑剤,事務設備・機器や生活用品に使用されているナノ材料や界面活性剤など,食環境に関しては,食品中の防腐剤,抗酸化剤,着色剤,食品包装・容器などの添加物に含まれる可塑剤など,衛生環境に関しては,農薬,抗菌化学物質など,生活環境では多くの化学物質が使用されるようになってきた。これらの環境化学物質の中で筆者がまず注目したのは,大気汚染物質,特に大気中の微小粒子状物質とアレルギーの関連である。

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