(愛知県 M)
大手3社が「副流煙が出ない」ことをセールスポイントとした非燃焼・加熱式(heat-not-burn)の新型タバコの販売を始めました。先行しているiQOS®(アイコス:フィリップ モリス社)は,2014年から300万個を販売していますが,2017年3月時点でも本体は入手困難な状況です。喫煙者数は約2000万人と推測されるので,その1割前後の人が使用していることになります。2016年からPloom TECH®(プルームテック:日本たばこ産業)とglo®(グロー:ブリティッシュ・アメリカン・タバコ社)の販売が続きましたが,同じく製造が追いついていません。
iQOS®は,粉末にした葉タバコをシートに織り込み,それを細かく裁断して巻紙に詰め,その中に加熱ブレードを挿入し,約300℃に熱します。内容物が蒸し焼き状態になり,メーカーの製品紹介に記載してある「たばこベイパー(蒸気のようなもの)」が発生します。しかし,「蒸気(vapour)」とは「物質が液体や固体の状態から蒸発したり昇華したりして気体になったもの」(広辞苑)であり,蒸気=気体(ガス)であれば目に見えません。iQOS®を使用した際,口の中には白い湯気のようなものが充満していることから,科学的にはエアロゾル(霧・ミストの総称)と呼ぶことが適切です。
ニコチンの沸点は247℃ですから,ニコチンは本人が吸引するエアロゾルに移行します。燃焼していないのでタールは低く抑えられていますが,ゼロではありません。つまり,非燃焼・加熱式タバコとは,低タール・高ニコチンのエアロゾルを吸引する行為なのです。
(1)問題点1:有害物の吸引には変わりない
「有害性を90%低減」することを強調して,「安全なタバコ」であるかのような印象を持たせていますが,逆に言うと10%の有害物を吸引することになります。国立保健医療科学院の調査で,強い発がん性を有するタバコ特異的ニトロソアミン,多環芳香族炭化水素類,ホルムアルデヒドなどが含まれることが明らかにされています1)。製品のチラシに「健康リスクを軽減させる一番の方法は,紙巻たばこもiQOS®も両方やめることです」と言い訳のような内容が小さな文字で書かれています。
(2)問題点2:禁煙の場での使用は禁止すべし
「オフィス,レストラン,ご家庭などの屋内環境に悪影響を及ぼしません」とチラシに記載されているため,喫煙が禁止されている場所で堂々と新型タバコを使用する人や,禁煙であったレストランが「新型タバコは使用できます」と逆戻りしているのを見かけるようになりました。2017年3月時点で,東京五輪に向けて健康増進法を改正してレストラン等も禁煙化する法案が検討されていますが,その動きを阻害する恐れがあります。
ヒトの呼吸器には解剖学的死腔(口腔〜気管・気管支,細気管支)があり,そこまでしか吸引されなかった約150mLのエアロゾルは,肺胞での吸収や沈着が行われずにそのまま呼出されます。iQOS®を使用した際に口から呼出されるエアロゾルに含まれる微小粒子状物質(PM2.5)を口元30cmで測定したところ,1m3当たり2000μgに達しました(図1)。同時にタバコが焦げる嫌なニオイが室内に拡がりました。
五輪大会ではなく国民の健康のため,すべての職場やレストラン,交通機関などで新型タバコの使用を禁止すべきです。
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