日本老年学会と日本老年医学会は、10~20年前に比べて高齢者の歩行速度や知能などで“若返り”が見られるとして、高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げるよう提案。与党内からも70歳未満は社会を支える「ほぼ現役世代」と捉えるべきとの声が上がっています。揺らぎ始めた「高齢者の定義」。先生方のお考えをお聞きしました。
今回は109人の先生方から回答をいただきました。
高齢者の年齢定義を現行の65歳から引き上げる方向性については、「賛成」「どちらかと言えば賛成」が計69%(75人)、「反対」「どちらかと言えば反対」が計が18%(20人)で、賛成が大きく上回りました。
「賛成」の理由としては、「65歳から高齢者にすれば、気力・体力ともに充実している人の意欲を低下させ、病弱者を多く生じさせてしまう」(勤務医・内科)など、高齢者も可能な限り「支える側」でいるべきという意見が多数。「75歳未満で『高齢者』と言われたくない人は多いのでは」(勤務医・内科)との声も。
一方、「反対」の理由を見ると、「60歳から頭も肉体も確実に老化します。自覚が乏しいだけ」(勤務医・内科)、「海外のジャーナルでも多くの論文が65歳以上を高齢者としている。65歳から老化は顕著だ」(勤務医・内科)と、高齢者の“若返り”に懐疑的な見方が目立ちました。しかし、最も多かった反対の理由は「年金支給開始年齢を遅らせたいという本音が透けて見える」(勤務医・内科)という「政治利用」への懸念でした。「賛成」の中でも、社会保障費の削減などに使うなら反対するという声が複数みられました。
高齢者は「何歳以上」と定義すべきか。最も支持が集まったのは「70歳」(32人)で、老年医学会などが提唱する「75歳」は20人でした。引下げを主張する声も少数ながらあり、老いの個人差を理由に「年齢で定義すべきでない」との声も5人から寄せられました。
「70歳」とした方の意見をみると、75歳では「健康寿命とほぼ同じになる」(開業医・整形外科)との指摘が上がったほか、「当院のレセプト枚数をみても、70歳を過ぎると受診者が多くなります」(開業医・内科)、「外来では70歳から急速にADLが低下し、脳血管疾患も急増する印象です」(勤務医・神経内科)など、臨床の実感に基づく理由が複数上がりました。
「75歳」とした方の中では、「1992年の65歳のADLと2000年の75歳のADLの在り方がほぼ同じとの報告があります」(開業医・内科)と高齢者の“若返り”にデータの面で賛同する声のほか、「自分自身、75歳を過ぎ体力の低下など身にしみて感じた」(勤務医・内科)という実体験に基づく声が寄せられました。