感染性心内膜炎は,自己の心臓弁または弁置換術後の人工弁に主に細菌感染を生じ,抗菌薬および手術による心臓弁病巣の切除が治療の基本である。重症化すると弁破壊が進み弁周囲に膿瘍が及ぶため,通常の人工弁(機械弁,生体弁)では再建が困難となり,術後に感染の再燃をきたす懸念もある。
ホモグラフト(同種組織)は,凍結保存されたヒトの心臓弁や血管などの組織であり,人工生体弁と同様に長期の抗凝固療法を必要とせず良好な血行動態が得られ,通常の人工弁に比べ抗感染性に優れている利点がある。ホモグラフト治療は僧帽弁手術には技術的に困難で確立されていないが,大動脈弁周囲構造の破壊を伴う重症感染例に対する弁再建手術に適しており,人工弁(機械弁)使用例の病院死亡率が23.5%であるのに対し,ホモグラフト使用例は8.5%と,人工弁に比べ良好な成績が報告されている1)2)。
一方で,術後遠隔期の変性や石灰化による弁機能不全やドナー不足による需要供給不均衡など,解決すべき課題もある。ホモグラフトの摘出,処理,保存,および提供は認可された組織バンクにて運営されており,臓器移植と同様にドナーおよび遺族の尊いご厚意の上に成り立っている。2006年から先進医療としてホモグラフト治療が実施されてきたが,16年4月より基準を満たす施設において保険診療となっている。
【文献】
1) Yankah AC, et al:Eur J Cardiothorac Surg. 2002;21(2):260-7.
2) 斎藤 綾, 他:臨と研. 2011;88(4):410-4.
【解説】
山内治雄*1,小野 稔*2 *1東京大学心臓外科講師 *2同教授