心不全では低ナトリウム(Na)血症が合併することが多い。近年,バソプレシンV2受容体拮抗薬が臨床導入され,心不全に合併する低Na血症の治療における有用性が期待されている。
バソプレシン受容体にはV1a,V1b,V2の3種類がある。V2受容体を介する効果は集合管での水の再吸収である1)。心不全による低Na血症ではバソプレシンの相対的分泌亢進が関与しており,V2受容体拮抗薬は理に適った治療薬と言える。肝硬変における腹水の治療にも使用されるようになった。慢性心不全においてバソプレシンV2受容体拮抗薬であるトルバプタンの長期効果を見たSALTWA TER試験2)では,平均701日のフォローアップ期間において,血清Na濃度135mEq/L以上を維持することができた。トルバプタンの長期使用で死亡率の低下などのハードエンドポイントの改善がみられるかどうか,今後の研究が待たれる3)。
一方,慢性低Na血症では認知障害や歩行障害,さらには骨粗鬆症をきたすことが知られるようになった。このことは転倒しやすく,また病的骨折をきたしやすいことを意味し,低Na血症とフレイルの関係が注目されている。バソプレシンV2受容体拮抗薬は慢性低Na血症の治療において既存の治療を上回る効果を上げることが期待される3)。
【文献】
1) Lehrich RW, et al:Am J Kidney Dis. 2013;62(2): 364-76.
2) Berl T, et al:J Am Soc Nephrol. 2010;21(4): 705-12.
3) Jovanovich AJ, et al:Kidney Int. 2013;83(4): 563-7.
【解説】
熊谷天哲 帝京大学地域医療支援講座特任講師
内田俊也 帝京大学内科教授